・・・が、藤井はいつのまにか、円卓に首を垂らしたなり、気楽そうにぐっすり眠こんでいた。 芥川竜之介 「一夕話」
・・・気取った形容を用いれば、梅花書屋の窓を覗いて見ても、氏の唐人は気楽そうに、林処士の詩なぞは謡っていない。しみじみと独り炉に向って、Rvons……le feu s'allume とか何とか考えていそうに見えるのである。 序ながら書き加える・・・ 芥川竜之介 「小杉未醒氏」
・・・しかしみんながそんな気になったら、それこそ人殺しや犯罪者が気楽で好かろうよ。どっちかに極めなくちゃあならないのだ。公民たるこっちとらが社会の安全を謀るか、それとも構わずに打ち遣って置くかだ。」 こんな風な事をもう少ししゃべった。そして物・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・ こういえば、理窟もつけよう、またどうこうというけれどね、年よりのためにも他人の交らない方が気楽で可いかも知れません。お民さん、貴女がこうやって遊びに来てくれたって、知らない婦人が居ようより、阿母と私ばかりの方が、御馳走は届かないにした・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・悪かったというて謝罪をすればそれで済む、謝罪を聞けば了簡すると、そんな気楽なことを思うと、吾のいうことが分るまいでな。何でもしたことには、それ相当の報酬というものが、多くもなく、少なくもなく、ちょうど可いほどあるものだと、そう思ってろ! 可・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・ お千代は枝折戸の外まできて、「まあえい天気なこと」 お千代は気楽に田圃を眺めて、ただならぬおとよの顔には気がつかない。おとよは余儀なく襷をはずし手拭を採って二人一緒に座敷へ上がる。待ちかねていた父は、ひとりで元気よくにこにこし・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・こんな長屋に親の厄介となっていたのだから無論気楽な身の上ではなかったろうが、外出ける時はイツデモ常綺羅の斜子の紋付に一楽の小袖というゾロリとした服装をしていた。尤も一枚こっきりのいわゆる常上着の晴着なしであったろうが、左に右くリュウとした服・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・第一気楽じゃないか、亭主は一年の半分上から留守で、高々三月か四月しか陸にいないんだから、後は寝て暮らそうとどうしょうと気儘なもので……それに、貰う方でなるべく年寄りのある方がいいという注文なんだから、こんないい口がほかにあるものかね。お仙ち・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・いう顔をしたり、文壇を指導したり、文壇に発言力を持つことを誇ったり、毒舌をきかせて痛快がったり、他人の棚下しでめしを食ったり、することは好まぬし、関西に一人ぽっちで住んで文壇とはなれている方が心底から気楽だと思う男だが、しかし、文壇の現状が・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ しかし海老原は一息に飲み乾して、その飲みっぷりの良さは小説は書かず批評だけしている彼の気楽さかも知れなかった。だから、「君には思想がわからないのだよ。不信といっても一々疑ってからの不信とは思えんね」と高飛車だった。「だから、消・・・ 織田作之助 「世相」
出典:青空文庫