・・・ぴしゃぴしゃと気疎い草鞋の音を立てて、往来を通る者がたまさかにあるばかりで、この季節の賑い立った様子は何処にも見られなかった。帳場の若いものは筆を持った手を頬杖にして居眠っていた。こうして彼らは荷の来るのをぼんやりして二時間あまりも待ち暮し・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・直射光線が気疎い回折光線にうつろいはじめる。彼らの影も私の脛の影も不思議な鮮やかさを帯びて来る。そして私は褞袍をまとって硝子窓を閉しかかるのであった。 午後になると私は読書をすることにしていた。彼らはまたそこへやって来た。彼らは私の読ん・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・、「けだもの」、「気疎い」にも縁がなくはない。 話は変わるが二三日前若い人たちと夕食をくったとき「スキ焼き」の語原だと言って某新聞に載っていた記事が話題にのぼった。維新前牛肉など食うのは禁物であるからこっそり畑へ出てたき火をする。そ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
出典:青空文庫