・・・富美子の生麦弁を「言葉の気魄」とかいたりすることへの皮肉な気分も書かれていて、それ等の反撥はいずれも同感をもって思いやられた。野生な自然な反撥があるのだが、同時に野沢富美子が、その反撥をバカな流行唄をジャンジャン歌うというような形でしか表現・・・ 宮本百合子 「『長女』について」
・・・は、その親しみぶかい沈潜した文章をとおして、ボルシェヴィキーの気魄を犇々と読者に感銘せしめる小説である。「オルグ」を書いた時代、前衛を描きながらも同志小林自身の実感はその境地に至らず、描かれた人物だけがどこやら公式的に凄み、肩をいからしてい・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・これらの作品は凜々とした気魄をたたんでいる点において 私の好むものである。p.13 「が私は「奉教人の死」の情熱を愛する」p.23 こういうことばの中に筆者は自分というものの責任を明かにしている――意識してかしないでか。芥川の作・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・米価はひどい騰貴で商人は肥え、庶人は困窮し、しかも日光の陽明門が気魄の欠けた巧緻さで建造され、絵画でも探幽、山楽、光悦、宗達等の色彩絢爛なものがよろこばれている。よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・それらの変更は、どれも母がやっていたよりは合理的な生活の方法への動きであり、新しい条件にふさわしい生活をつくり出して行こうとする父の気魄がこもっている仕事なのである。けれども、日が経つにつれ、私はこのごろ二階の床の間に飾ってある母の写真を平・・・ 宮本百合子 「母」
・・・家はそれを煩悶するとしても、然し積極的にそう云う不健全な社会を改革しようなどと云う熱情は、その階級性によって多く持っていないから、いたずらに感傷主義に浸るだけで、彼女等には正しい生活を建設しようとする気魄に欠けています。芸術作品は単に作品だ・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・一冊の本の内へはいっていって、その世界と自分の生活とを密接にからみ合わせてみるという気魄のある読みかたが失われているように思える。 現代は一方に一種の精神主義がひろがっていて声高くものをいっているのであるが、その片面にこういう精神活動の・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・国文学研究の正道に立って、古典が文学外の力に利用されることに疑義を挾むぐらい、真に気魄をもって国文学を研究する人は尠い。明治以来今日迄のヨーロッパ文学研究の盛んなのとその影響力に対して、或る種の国文学研究者は、自身の態度として、反動である可・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・自由民権の云われた時代の作物が、今日なお面白く、或る気魄によって読ませるのは、筆者の全生活がかかる社会的現実の上に活きていたからである。当時の文筆家は、実際に新興ブルジョアジーが最も必要とした文明開化の輸入者、供給者、啓蒙者であった。所謂要・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・しかし女としては、と女に向けられた面での言葉は、決して四十何年か前、福沢諭吉が気魄をこめて女子を励ました、そのような人間独立自尊の精神の力はこめられていない。貝原益軒の「女大学」を評して、常に女に与えられている「仕える」という言葉を断じて許・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫