・・・ 乙は其を横目で見て、「まさか水力電気論の中には説明してあるまいよ。」「無いとも限らん。」「あるなら、その内捜して置いてくれ給え。」「よろしい。」 甲乙は無言で煙草を喫っている。甲は書籍を拈繰って故意と何か捜している・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・木曾路に残った冬も三留野あたりまでで、それから西はすでに花のさかりであった。水力電気の工事でせき留められた木曾川の水が大きな渓の間に見えるようなところで、私はカルサン姿の太郎と一緒になることができた。そこまで行くと次郎たちの留守居する東京の・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ 水力発電所が何カ所かある。その中には日本一の落差で有名だというのがある。大正池からそこまで二里に近い道程を山腹に沿うて地中の闇に隧道を掘り、その中を導いて緩かに流して来た水を急転直下させてタービンを動かすのである。この工事を県当局で認・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ 星野に小さな水力発電所がある。六十五キロだそうである。これくらいのかわいいのだといわゆる機械的バーバリズムの面影はなくて、周囲の自然となれ合って落ち着いている。狭い発電所の構内には、おいらん草が真紅に美しく咲き乱れている。発電所から流・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・野の尾花の末を流れる川の岸のさびしい物哀れな小駅であったが、来て見るとまず大きな料理屋兼旅館が並んでいる間にペンキ塗りの安西洋料理屋があったり、川の岸にはいろんな粗末な工場があったり、そして猪苗代湖の水力で起こした電圧幾万幾千ボルトの三相交・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・そうして、重力に逆らい、風圧水力に抗するようないろいろの造営物を作った。そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のように、自然があばれ出して高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を危うく・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・を利用して水道工事が出来、これが後に水力学の実験に利用されるようになったのである。 その頃彼は国会議員として政治生活に入るように彼の父その他からも勧められた。政治に対する興味はかなりあったが国会議員として立つ事は好まなかった。そうしてテ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・遠く水力電気発電所がみえる。穀物、家畜を積んだ貨車と、農具を満載した貨車とがすれちがった。 都会だ。工場だ。都会の工業生産と、労働者との姿が巨大に素朴にかかれている。 閲兵式につづいてデモはモスクワ全市のあらゆる街筋から、この赤い広・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 五箇年計画でソヴェト同盟の中には、水力発電所、工場、集団農場、夥しくふえた。ソヴェトで工場が建ち集団農場が一つふえたということは、だから必ず同時に、そこには労働者クラブ、托児所が建ち或る場合にはごく新式の設備をもった住宅さえ立ち並ぶこ・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・革命前から活動していた女流作家でシャギニャーンと云う人は、水力電気発電所に取材した小説を書いてレーニン賞を得ました。又もとのブルジョア作家も社会的に働き出して、男と同じ大きな取材にもドシドシ取り組んでいます。 要するに婦人作家の「不振」・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫