・・・彼はまず水浴している。それから乳糜を食している。最後に難陀婆羅と伝えられる牧牛の少女と話している。 政治的天才 古来政治的天才とは民衆の意志を彼自身の意志とするもののように思われていた。が、これは正反対であろう。寧ろ政治・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・を模したのなどは美しかったが、シャバの「水浴の少女」をそっくりそのままベッドの前に立たせ、変なおやじが箒で腰をなぐろうとしている光景は甚だ珍妙ないかがわしいものであった。大切りにナポレオンがその将士を招集して勲章を授ける式場の光景はさすがに・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 河岸には職業組合の設けた水浴場がある。 青葉の下の飛び込み台から身をおどらし、若い女が水へ飛び込む。サッとたつ水煙。 さわやかな河風に労働者の群像が捧げている数条の赤旗は、小高い丘の上でいきいきとひるがえった。〔一九三一年五月・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ これは、トルストイが、水浴場へ行く道々子のイリアに話したという創作上の気分に就ての言葉である。 けれどもこんな内省は、たといト翁ほど偉大ではなく性格の点で全然異った型に属する者でも、創作のことに携るものとなれば、大なり小なり、幾度・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・素敵な水浴場もある。一晩ゆっくり楽しんだって、隅から隅までは見きれるものじゃない。 白い木綿や麻のルバシカを着たソヴェトのプロレタリアートに支那人もコーカサス人もグルジヤ人も混って、愉快に大衆遊戯などやってる光景は、実に世界に二つとない・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・ 水浴をする黒坊 水浴をする黒坊。 八月の日は光り漣は陽気な忍び笑いに肩を揺ぶる――青天鵞絨の山並に丸く包まれた湖は、彼等の水槽。 チラチラと眩ゆい点描きの風景、魚族のように真黒々な肌一杯に夏を吸いながら、ドブン・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・ 門の方へ出て来ると、黒い水着を丸めて手に持った少年が番人に六ペンスはらって入って来た。水浴だ。黄色い運動服の女学生の姿は、一時間二シリング分だけネット裏で美しい。 人通りのない鉄柵に沿った暑いがらんとした通りをアイス・クリーム屋が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫