・・・山入の水源は深く沈んだ池沼であろう。湖と言い、滝と聞けば、末の流のかくまで静なことはあるまいと思う。たとい地理にしていかなりとも。 ――松島の道では、鼓草をつむ道草をも、溝を跨いで越えたと思う。ここの水は、牡丹の叢のうしろを流れて、山の・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・神社へ参詣をして、裏門の森を抜けて、一度ちょっと田畝道を抜けましたがね、穀蔵、もの置蔵などの並んだ処を通って、昔の屋敷町といったのへ入って、それから榎の宮八幡宮――この境内が、ほとんど水源と申して宜しい、白雪のとけて湧く処、と居士が言います・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・村の北端をゆるゆると流れていた三間ほどの幅の神梛木川が、ひとつき続いた雨のために怒りだしたのである。水源の濁り水は大渦小渦を巻きながらそろそろふくれあがって六本の支流を合せてたちまち太り、身を躍らせて山を韋駄天ばしりに駈け下りみちみち何百本・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・論の水源は、「マルクシズムという実証主義の精神」に「突きあたって跳ねかえったものなら、自由というものは、およそどんなものかということぐらい知っていなくちゃ、もうそれは知識人とはいえないんだ」というところにあった。そしてその自由というのは「自・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
出典:青空文庫