・・・自分は、今この覚え書の内容を大体に亘って、紹介すると共に、二三、原文を引用して、上記の疑問の氷解した喜びを、読者とひとしく味いたいと思う。―― 第一に、記録はその船が「土産の果物くさぐさを積」んでいた事を語っている。だから季節は恐らく秋・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・された仕事が問題の各方面を引っくるめた全体の上から見ると実に些末な価値しかないものと他の多くの人からは思われるものであっても、それが丁度、当該審査委員の正に求めている壷にはまり、その委員の刻下の疑団を氷解せしめるような要点に触れている場合に・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・梅幸のお富が舞台の上で、ひっかけ帯で横にすわりながらおゆきがそういうときとよく似た声の調子でおまはんと云ったとき、すべてが氷解した。母が、子供たちをおゆきのところへ行かせたがらなかった母らしい潔癖と偏見の意味もわかった。もうその頃は、おゆき・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・という意味深長な伝統を背後にもっている提疑は、この点からこそ作家と理論家と、双方からの努力で氷解されなければならない。作家が創作の力をたかめ、強固にし、あるいは創作する可能性そのものをさえよろこびをもって自身の日々の間に発見してゆくのは、民・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫