・・・「やはり十字架の御威光の前には、穢らわしい日本の霊の力も、勝利を占める事はむずかしいと見える。しかし昨夜見た幻は?――いや、あれは幻に過ぎない。悪魔はアントニオ上人にも、ああ云う幻を見せたではないか? その証拠には今日になると、一度に何・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・さもなければまた、あの人同様、私もただ汚らわしい心もちに動かされていたのであろうか。そう思っただけでも、私は恥しい。恥しい。恥しい。殊にあの人の腕を離れて、また自由な体に帰った時、どんなに私は私自身を浅間しく思った事であろう。 私は腹立・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
・・・私の純粋戯曲理論から見ると、小説本など形式がだらだらして、なんだか汚らわしいように思われた。高等学校時代のことである。 高等学校は三高、山本修二先生、伊吹武彦先生など劇に関係のある先生がいて、一緒に脚本朗読会をやって変な声をだしていた。・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・ 仕事の邪魔された上に、よけいな汚らわしいものを見せられたといったような語気も見えて、先生はいろいろなことを言って聞かしたが、悄気きった眼の遣り場にも困っているらしい耕吉の態を気の毒にも思ったか、「しかし直入さんはあなたのお国の方へ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・又その様な汚らわしいものをよううけいでもすむわしだとお思いなされであったかも知れぬ、……粉雪のサラサラ云う音はやんで本降りにソクソクとつもって行く。遠くの方で――それでも城の内でかすかに俗謡をうたって居る声と笛の音がする。王・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫