・・・手紙がぼくを決める。手紙をかく決心がついた。明日から絵を一枚描く。そして一層決心をかためる。一週間で絵が大体出来る。それから蔦に行って手紙をかく。手紙をかかなかったら東京へ帰らない。どうなるにしても手紙をかいてからです。『青い鞭』創刊号うけ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・電車は新陳代謝して、ますます混雑を極める。それにもかかわらず、かれは魂を失った人のように、前の美しい顔にのみあくがれ渡っている。 やがてお茶の水に着く。五 この男の勤めている雑誌社は、神田の錦町で、青年社という、正則英語・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・むしろわれわれはこの現象がどうして発生したかを研究し、またその将来がどうなるであろうかということを考察した上で、これに対する各自の態度を決めるのが合理的ではないかと思われるのである。 それにはいろいろの研究が可能であるが、たとえば進化論・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ことにただいま牧君の紹介で漱石君の演説は迂余曲折の妙があるとか何とかいう広告めいた賛辞をちょうだいした後に出て同君の吹聴通りをやろうとするとあたかも迂余曲折の妙を極めるための芸当を御覧に入れるために登壇したようなもので、いやしくもその妙を極・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ それは、一つの国家と、その向う側の国家とで勝手に決める問題だ。 これは、ブルジョアジーと、プロレタリアートとの間にも通じる。 プロレタリアは「鰹節」だ。とブルジョアジーは考えている。 プロレタリアは、「俺達は人間」だ。「鰹節」・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・こういう「キャナライゼーションが発達すると人間はカラッポになって単純な感覚反応のくみあわせでその日その日のことを決めることになる」。しかし「その際重要視すべきことは、その関係が直接的なものとしては表にあらわれないということ」である。「キャナ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・イエニーが経済的に困難を極める日々のなかでなおハイネの詩を読んでやり、気分の不安定だった孤独な詩人を慰めてやっていたということは、イエニーの資質の豊かさを残りなく語っているのである。 パリにおけるマルクス一家の経済的基礎であった『独仏年・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 人間の性格や気質にいろいろの癖があったり自己撞着があったりするのも畢竟は、私たちすべてのものが、ぽつんと天地の間に湧き出たものではなくて、波瀾を極める人間社会の肉体の歴史、精神の歴史の綾の裡から、またその綾に綾を加えるものとして生れ出・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・ このような日本の革命の課題に立って民主主義文学運動をみたとき、その小説を労働者が書いたから、革命の主力である労働者階級の文学であると決めることはまちがいであることが分る。作家の偶然の出生によって階級性を云々することの誤りは、すでにプロ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・子供がよしあしを決める。それによって我々は修正しさらに前進する。 監督は再び少年少女達の横をしずかに通りすぎながら、日本女にねばりづよい熱情をもってささやいた。 ――御覧なさい、彼らはほんとにソヴェトの新人間です。なんと彼らが育つこ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫