・・・が、その手筈を決める決心はつかないらしかった。なほ子は、祖父の癌であったことからそれを気にしているのであったが、まさ子は、そんな疑いを頭に置かないし、置いているとしても彼女は第一医者に信用を置いていなかった。十三年ばかり前、癌だと云われ、切・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・文学を、歴史やその作品の生まれた社会からきりはなして見ることは本当の文学の鑑賞の仕方、読み方でもないし、或は自分の好きか嫌いかを決める標準としても不十分です。 もう一つ別の例を考えて見ましょう。イタリーをムッソリーニのファシズムの政権が・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・まだ階級としての小市民を知らず、ただそれに対して本能的な、執拗な反抗をしつつ、その反抗を系統づけ、方向を決めるプロレタリアの力が情勢として育っていないために危くも虚無的な、社会の破壊力の裡へ堕落しそうになった一箇の才能のもがきは、私達に最も・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ あなたが、自分の進んで行くハッキリした道を決めるためには先ず工場、農村でどんなに忍耐づよく毎日毎日を解放に向って働く大衆が闘っているか、その実際を目と耳とで身にしみて知り、それに対して自分はどんな手伝いが出来るか真面目に研究し同時に良・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
・・・君の胸臆は明白に私の前に展開せられて時としては無遠慮を極めることがある。Verblueffend に真実を説くことがある。私はいつもそれを甘んじ受けて、却って面白く感じた。 殆ど毎日逢って、時としては終日一しょにいることさえあるので、F・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫