・・・ 主筆 それから決闘にでもなるのですか? 保吉 いや、ただ夫は達雄の来た時に冷かに訪問を謝絶するのです。達雄は黙然と唇を噛んだまま、ピアノばかり見つめている。妙子は戸の外に佇んだなりじっと忍び泣きをこらえている。――その後二月とたた・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・そう思うと私は矢も楯もたまらなくなって、そっと魔術を使いながら、決闘でもするような勢いで、「よろしい。まず君から引き給え。」「九。」「王様。」 私は勝ち誇った声を挙げながら、まっ蒼になった相手の眼の前へ、引き当てた札を出して・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・ さて、これは決闘状より可恐しい。……もちろん、村でも不義ものの面へ、唾と石とを、人間の道のためとか申して騒ぐ方が多い真中でございますから。……どの面さげて画師さんが奈良井へ二度面がさらされましょう、旦那。」「これは何と言われても来・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・頭の狭い中で、決闘がまたしては繰返されているようである。この辺の景物が低い草から高い木まで皆黒く染まっているように見える。そう思って見ている内に、突然自分の影が自分の体を離れて、飛んで出たように、目の前を歩いて行く女が見えて来た。黒い着物を・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・宝石箱のようなものであって、まだ読まぬ人は、大急ぎで本屋に駈けつけ買うがよい、一度読んだ人は、二度読むがよい、二度読んだ人は、三度読むがよい、買うのがいやなら、借りるがよい、その第十六巻の中の、「女の決闘」という、わずか十三ページの小品につ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 決闘 それは外国の真似ではなかった。誇張でなしに、相手を殺したいと願望したからである。けれどもその動機は深遠でなかった。私とそっくりおなじ男がいて、この世にひとつものがふたつ要らぬという心から憎しみ合ったわけでもな・・・ 太宰治 「逆行」
・・・当雑誌の記者二名、貴方と決闘すると申しています。玉稿、ふざけて居る。田舎の雑誌と思ってばかにして居る。おれたちの眼の黒いうちは、採用させぬ。生意気な身のほど知らず、等々、たいへんな騒ぎでございました。私には成算ございましたので、二、三日、様・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「女の決闘」の映画などは、在り得ない。 どうも、自作を語るのは、いやだ。自己嫌悪で一ぱいだ。「わが子を語れ」と言われたら、志賀直哉ほどの達人でも、ちょっと躊躇するにちがいない。出来のいい子は、出来のいい子で可愛いし、出来の悪い子・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・ ――女の決闘、駈込み訴え。結局、先生の作品は変った小説だとしか私には消化出来ない。何か先生より啓示を得たいと思う。一つ御説明を願いたい。端的に。ダダイズムとは結局、何を意味するか。お願いします。草田舎の国民学校訓導より。―― 私は・・・ 太宰治 「新郎」
・・・けれども、恋人の森ちゃんは、いつも文学の本を一冊か二冊、ハンドバッグの中に入れて持って歩いて、そうしてけさの、井の頭公園のあいびきの時も、レエルモントフとかいう、二十八歳で決闘して倒れたロシヤの天才詩人の詩集を鶴に読んで聞かせて、詩などには・・・ 太宰治 「犯人」
出典:青空文庫