・・・天然の沙漠は水をさえこれに灑ぐを得ばそれでじきに沃土となるのであります。しかし人間の無謀と怠慢とになりし沙漠はこれを恢復するにもっとも難いものであります。しかしてユトランドの荒地はこの種の荒地であったのであります。今より八百年前の昔にはそこ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・無常迅速、流転してやまざる環境に支配された人生の不定感は一方では外来の仏教思想に豊かな沃土を供給し、また一方では俳諧のさびしおりを発育させたのであろう。 私のこのはなはだ不完全に概括的な、不透明に命題的な世迷い言を追跡する代わりに、読者・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 長い間人間の目の敵にされて虐待されながら頑強な抵抗力で生存を続けて来た猫草相撲取草などを急に温室内の沃土に移してあらゆる有効な肥料を施したらその結果はどうなるであろう。事によると肥料に食傷して衰滅するかもしれない。貧乏のうちは硬骨なの・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・将来にわたる文化の沃土として作家や読者大衆をみない。この条件は、作家をわる巧者にして、自分にとっても曖昧な「文学性」の上に外見高くとまりつつ稼ぎつづけで、消耗されてきたのである。 戦争の年々は、私たちすべてに、苛烈な教訓を与えた。個々の・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・あらゆる日本の隅々から、あらゆる日本の町々から、日本の人民の議論と、笑いと、真摯な物語りとやさしい心情の流露とが溢れて、荒廃した日本を沃土としなければならないのである。 日本は、このように小さい島である。けれども、南と北に弓なりに張られ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・当時は、新しく登場した作家として「沃土」を書いた和田伝、「鶯」を発表した伊藤永之介等の作家があり、「あらがね」で鉱山の生活を描こうとした間宮茂輔等があった。農村を題材として和田、伊藤の作家が活動し始めたには、前年からの社会的題材への要望、作・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫