・・・じっと心を守り、余分な精力と注意は一滴も他に浪費しないように、念を入れ心をあつめて、ペンならペン、絵筆なら絵筆を執るべきでしょう。 恋愛に対してもそうであろうと思われます。決して卑しく求むべきではないし、最上とか何とか先入的な価値の概念・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・ 秀麿の眉間には、注意して見なくては見えない程の皺が寄ったが、それが又注意して見ても見えない程早く消えて、顔の表情は極真面目になっている。「君つまらない笑談は、僕の所でだけはよしてくれ給え。」「劈頭第一に小言を食わせるなんぞは驚いた・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ここに来たからには、せっかくの御注意ですが、やっぱりこのまま置いてお貰い申しましょう。」ツァウォツキイはこう云って、身を反らして、傲慢な面附をして役人の方を見た。胸に挿してある小刀と同じように目が光った。 役人は「監房に入れい、情の無い・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・舟が矢のように下ってくる篝火の下で、演じられた光景を見たときも感じたことだが、一人のものが十二羽の鵜の首を縛った綱を握り、水流の波紋と闘いつつ、それぞれに競い合う本能的な力の乱れを捌き下る、間断のない注意力で鮎を漁る熟練のさ中で、ふと私は流・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・あの男のどこが、こんなに己の注意を惹いたのだか、己の部屋に這入っていた時間が余り短かったので、なんとも判断しにくい。目は青くて、妙な表情をしていた。なんでもずっと遠くにある物を見ているかと思うように、空を見ていた。悲しげな目というでもない。・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・しかし彼は最も辛辣に私の注意を刺激する。従って私の意識を占領する度数が非常に多い。彼の特質がこの刺激性にないとは言い切れまい。 彼の現在は未知数である。彼が私の注意を引くのは価値が高いゆえでなくて価値がいまだ現われないからである。彼は確・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫