・・・最一つ二葉亭は洞察が余り鋭ど過ぎた、というよりも総てのものを畸形的立体式に、あるいは彎曲的螺旋式に見なければ気が済まない詩人哲学者通有の痼癖があった。尤もこういう痼癖がしばしば大きな詩や哲学を作り出すのであるが、二葉亭もまたこの通有癖に累い・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・人間のもろもろの行為が人間の運命と世界過程とにいかに影響するかの複雑な方式を洞察する必要もない。ただ人間の精神に関する知識が必要なるのみである。それは心理上の事実の問題であって、世界認識の問題ではない。自己認識の問題に終始する。 かくの・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・彼の犀利の眼光はこのときすでに禅宗の遁世と、浄土の俗悪との弊を見ぬき、鎌倉の権力政治の害毒を洞察していた。二十一歳のときすでに法然の念仏を破折した「戒体即身成仏義」を書いた。 その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・が潜在していることを洞察して、ゼネラスな態度で、その意をくみとろうと努むべきである。 人間は宿命的に利己的であると説くショウペンハウァーや、万人が万人に対して敵対的であるというホップスの論の背後には、やはり人間関係のより美しい状態への希・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・女性の天賦の霊性と直観力とで、歴史と社会との文化史的向上の方向を洞察して、時代をその方向に導くように、男子を促し、鞭韃し、また自ら立ってそのために奮闘するだけの覚悟がなくてはならぬ。その覚悟はまた自ら子どもをその時代を産むための努力に鼓吹す・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ アインシュタインの考えでは、若い人の自然現象に関する洞察の眼を開けるという事が最も大切な事であるから、従って実科教育を十分に与えるために、古典的な語学のみならず「遠慮なく云えば」語学の教育などは幾分犠牲にしても惜しくないという考えらし・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・市井の流行風俗、生活状態のようなものはもちろん、いろいろな時代思潮のごときものでも、すぐれた作者の鋭利な直観の力で未然に洞察されていた例も少なくないであろう。未来の可能性は、それがどんなに現在の凡人に無稽に見えても実は現在の可能性のほんのわ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・昔の絵かきは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最もわかりやすい方法によって表現したように思われる。しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・昔の絵描きは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最も分りやすい方法によって表現したように思われる。然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然など・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・そうして、コーヒーの効果は官能を鋭敏にし洞察と認識を透明にする点でいくらか哲学に似ているとも考えられる。酒や宗教で人を殺すものは多いがコーヒーや哲学に酔うて犯罪をあえてするものはまれである。前者は信仰的主観的であるが、後者は懐疑的客観的だか・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
出典:青空文庫