・・・かつ高価を支払われて外国へ流出したものも沢山あるらしいから、追付けクルトやズッコのお仲間が日本人の余り知らない傑作の複製を挿図した椿岳画伝を出版して欧洲読画界を動揺する事がないとも限られない。「俺の画は死ねば値が出る」と傲語した椿岳は苔下に・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・その原動力が、刻々に、体外へ流出した。 彼は、抜き捨てられた菜ッ葉のように、凋れ、へすばってしまいだした。 彼は最後の力を搾った。 彼はまた這い上ろうとした。 将校は、大刀のあびせようがなかった。将校は老人の手や顔に包丁で切・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・腹膜に膿が流出していて、困難な手術になった。手術して二日目に、咽喉から血塊がいくらでも出た。前からの胸部の病気が、急に表面にあらわれて来たのであった。私は、虫の息になった。医者にさえはっきり見放されたけれども、悪業の深い私は、少しずつ恢復し・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・それにかかわらずグラハムの器械からは電流が遠慮なく流出した。その後にこの器械から電流の生ずるというほうの証明がだんだん現われて来たという話を何かで読んだ事がある。しかしその大家の論文をよく読んでみなければうっかりその人の非難はできない。・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・この流れが始まると、陸地の表面では上層の空気が他処へ流出するために圧が海上の同じ高さの点より低くなる。従って地面近くでは海のほうから陸へ向けて風が吹く、これがすなわち海風である。夜間は陸上の空気が海上のものよりも著しく冷却するから、これと反・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・そこでこの容器の底に穴をあけて水を流出させれば水面の降下につれて栓と棒とが降下するのであるが、その穴の大きさをうまく調節すると二つの土器の二つの棒が全く同じ速度で降下しいつでも同じ通信文が同時に容器の口のところに来ているようになるのである。・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったようなことについて、具体的の実例をあげていわゆる官僚的元老の横暴を語るのであったが、それがただ冷静な客観的の噂話でなくて、かなり興奮した主観的な憤懣を流出させるのであった。どういう方面からそ・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・この学者の説によると、第一に水の流出する音が人の声を誘う、第二には浴場の壁は普通の家のように音波を擾乱するものがないためによく反響して声が充実して聞えるためだという。しかしこの説が日本の浴場にも通用するかどうか少し疑わしい。自分の考えでは温・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・前記の浴室より、もう少し左上に当たる崖の上に貸し別荘があって、その明け放した座敷の電燈が急に点火するときにそれをこっちのベランダで見ると、時によっては、一道の光帯が有限な速度で横に流出するように見えることがある。これはたぶんまつ毛のためやま・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・一つコックの工合の悪いのがあって、それから湯が不断に流出している。もったいない、と知らぬおばさんが云う。暖かい湯気が立上がる。しおれた白百合やカーネーションが流しの隅に捨ててある。百合の匂。カーネーションの匂。洗濯する人。お化粧する人。・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
出典:青空文庫