・・・例えば先祖から持ち伝えた山を拓いて新らしい果樹園を造ろうとしたようなもので、その策は必ずしも無謀浅慮ではなかったが、ただ短兵急に功を急いで一時に根こそぎ老木を伐採したために不測の洪水を汎濫し、八方からの非難攻撃に包囲されて竟にアタラ九仭の功・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・したがってただそれだけで、夫の人格を評価して、夫婦生活にひざまずいたりするのは浅慮である。 天然と歴史とは往々にして偉大なる男性に、超家庭的の性格と使命とを与える。すべての男性が家庭的で、妻子のことのみかかわって、日曜には家族的のトリッ・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・に飛ばざるべからず、老生も更に心魂を練り直し、隣人を憎まず、さげすまず、白氏の所謂、残燈滅して又明らかの希望を以て武術の妙訣を感得仕るよう不断精進の所存に御座候えば、卿等わかき後輩も、老生のこのたびの浅慮の覆轍をいささか後輪の戒となし給い、・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ どうも、作者が一般的な人間の貪慾とか浅慮とかいうものを抽象して来て、欲ばるとこんな目に会うぞという教訓を与えようとする場合、たれの心にでも、つまりどんな地位、階級のものにでもめいめいの立場によって生じる主観的な実際行為の正常化を前もって封・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
出典:青空文庫