・・・ 一行四人は兵衛の妹壻が浅野家の家中にある事を知っていたから、まず文字が関の瀬戸を渡って、中国街道をはるばると広島の城下まで上って行った。が、そこに滞在して、敵の在処を探る内に、家中の侍の家へ出入する女の針立の世間話から、兵衛は一度広島・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 四月三十日の未の刻、彼等の軍勢を打ち破った浅野但馬守長晟は大御所徳川家康に戦いの勝利を報じた上、直之の首を献上した。(家康は四月十七日以来、二条の城にとどまっていた。それは将軍秀忠の江戸から上洛するのを待った後この使に立ったのは長晟の・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
・・・吉良上野のほうはだれがやるとしても比較的やさしいと思われるが浅野内匠のほうは実際むつかしい。片岡千恵蔵氏もよほど苦心はしたようであるが、どうも成効とは思われない。あの前編前半のクライマックスを成す刃傷の心理的経過をもう少し研究してほしいとい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 清洲橋をわたった南側には、浅野セメントの製造場が依然として震災の後もむかしに変らず、かの恐しい建物と煙突とを聳かしているが、これとは反対の方向に歩みを運ぶと、窓のない平い倉庫の立ちつづく間に、一条の小道が曲り込んでいて、洋服に草履をは・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・会員の顔ぶれとして、林房雄、浅野晃、北原白秋、保田与重郎、中河与一、倉田百三等、この一、二年来の新日本主義的提唱とともに既に顕著な傾向性を示すと共に一般からおのずからなる定評を与えられている諸氏以外に国文学その他の分野では一応は誰しも社会的・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・加賀の前田は金沢、上杉は米沢、浅野松平は広島の城主である。 文政の初年には竜池が家に、父母伊兵衛夫婦が存命していて、そこへ子婦某氏が来ていた。竜池は金兵衛以下数人の手代を諸家へ用聞に遣り、三日式日には自身も邸々を挨拶に廻った。加賀家は肥・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫