・・・――浜方へ飛ばねえでよかった。――漁場へ遁げりゃ、それ、なかまへ饒舌る。加勢と来るだ。」「それだ。」「村の方へ走ったで、留守は、女子供だ。相談ぶつでもねえで、すぐ引返して、しめた事よ。お前らと、己とで、河童に劫されたでは、うつむけに・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・と呼ばるる、浜方屈竟の阿婆摺媽々。町を一なめにする魚売の阿媽徒で。朝商売の帰りがけ、荷も天秤棒も、腰とともに大胯に振って来た三人づれが、蘆の横川にかかったその橋で、私の提げた笊に集って、口々に喚いて囃した。そのあるものは霜こしを指でつついた・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・江の浦口野の入海へ漾った、漂流物がありましてな、一頃はえらい騒ぎでございましたよ。浜方で拾った。それが――困りましたな――これもお話の中にありましたが、大な青竹の三尺余のずんどです。 一体こうした僻地で、これが源氏の畠でなければ、さしず・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
出典:青空文庫