・・・、我々はさらに、現実暴露、無解決、平面描写、劃一線の態度等の言葉によって表わされた科学的、運命論的、静止的、自己否定的の内容が、その後ようやく、第一義慾とか、人生批評とか、主観の権威とか、自然主義中の浪漫的分子とかいう言葉によって表さるる活・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・思えば自然主義から、浪漫主義時代にかけ、その頃の世の中の空気がなつかしいものに感ぜられます。 店に居た彼女等は、何うしたであろう。もういい加減のお婆さんでいるにちがいない。空想には、時間も空間もないから、生々として、黒い瞳や、紅い唇が、・・・ 小川未明 「春風遍し」
・・・昨年、二科から脱退して、新浪漫派とやらいう団体を、お作りになる時だって、私は、ひとりで、どんなに惨めな思いをしていた事でしょう。だって、あなたは、蔭であんなに笑って、ばかにしていたおかた達ばかりを集めて、あの団体を、お作りになったのでござい・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・変らず、身辺の良友の言を聴き、君の遠大の浪漫を、見事に満開なさるよう御努力下さい。 太宰治 「砂子屋」
・・・ベートーヴェンの作品でも大きなシンフォニーなどより、むしろカンマームジークの類を好むという事や、ショパン、シューマンその他浪漫派の作者や、またワグナーその他の楽劇にあまり同情しない事なども、何となく彼の面目を想像させる。 絵画には全く無・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ さて一方文学を攷察して見まするにこれを大別してローマンチシズム、ナチュラリズムの二種類とすることが出来る、前者は適当の訳字がないために私が作って浪漫主義として置きましたが、後者のナチュラリズムは自然派と称しております。この両者を前に申・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・もっとも文芸の方の話を詳しく云うつもりではないから、必要な説明だけに留めて、ごくざっとしたところを申しますが、近年文芸の方で浪漫主義及び自然主義すなわちロマンチシズムとナチュラリズムという二つの言葉が広く行われて参りました。そうしてこの二つ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・目次のゲラをみると、これまでの既成文学史と同様に、写実主義時代、浪漫主義時代、自然主義時代と順を追って、プロレタリア文学、モダニズムとすすんでいる。こういうわけ方は、東京堂出版の「日本文学史」や改造社の「文学全集」でもやったことである。写実・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
・・・ 彼は全く白村氏の書かれた通り新しい浪漫主義者であろう。故国の政治的状態に就て話そうとはせずに、昔ながらの伝説と神秘の詩に抱かれながら、「今」を超えて生活をする愛蘭農民の永遠を語るのが彼である。彼の素晴らしい空想は、何時でもすきな時に私・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・私は凍らず天をみない落差ます/\はげしく一樹なく人工の浪漫なくおもむきなく世の規定を知らずとび落ちようおのが飛沫の中にかゞやき落ちようおゝ詩はやわらかい言葉のためにあるのではないわがうたは社交と虚礼のため・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫