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・・・すると、ありありと姉さんの面影が、その、日に輝いたとこなつの花弁の中に浮き出るのでありました。 少女は、声をあげんばかりに驚き、かつ喜びました。そして、いつでも姉さんを思い出すと、彼女はその花の前にきて、じっとながめたのであります。その・・・
小川未明
「夕焼け物語」
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・・・この闇の中を夢のように歩いていると、暗い中に今夜見た光景が幻影となって浮き出る。まじょりかの帆船が現われて蒼い海を果もなく帆かけて行く。海にも空にも船にも歳は暮れかかっている。逝く年のあらゆる想いを乗せて音もなく波を辷って行く。船には竹村君・・・
寺田寅彦
「まじょりか皿」