・・・闇が消え失せるのを。」「見渡す限り、あなたの山、あなたの森、あなたの川、あなたの町、あなたの海です。」「新しい神なぞはおりません。誰も皆あなたの召使です。」「大日貴! 大日貴! 大日貴!」 そう云う声の湧き上る中に、冷汗にな・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまう、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、――それはいつも同じことだった。眼科の医者はこの錯覚の為に度々僕に節煙を命じた。しかしこう云う歯車は僕の・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 使、突然また消え失せる。 小町 ああ、やっと助かった! これも日頃信心する神や仏のお計らいであろう。八百万の神々、十方の諸菩薩、どうかこの嘘の剥げませぬように。 二 黄泉の使、玉造の小町を背負いながら・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・明るい色の衣裳や、麦藁帽子や、笑声や、噂話はたちまちの間に閃き去って、夢の如くに消え失せる。秋の風が立つと、燕や、蝶や、散った花や、落ちた葉と一しょに、そんな生活は吹きまくられてしまう。そして別荘の窓を、外から冬の夜の闇が覗く。人に見棄てら・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そうしてこの体験は彼の生涯を通じて消え失せることがない。 そこで振り返って見ると、茸の価値をこの子供に教えた年長の仲間たちも、同じようにそれぞれの仕方においてこの価値を体験していたのであった。そうしてその体験の表現が、たとえば茸狩りにお・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫