・・・しかし、さらにもう一歩踏みこんで、もっと科学的な方法で、一定の労働、その労働によるエネルギーの消耗、それに応じて一定の色彩に対する感覚的反応、または音楽音に対する感情の波動が、純粋に実験的なものとして記録されることができたら、どんなに興味あ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・そして近代国家としての日本は、軽工業の労働の裡に青春を消耗しつくす貧困、無智な婦人の労力を土台にして、第一次欧州大戦迄膨張をつづけて来たのであった。 第一次大戦終了の後、漸々新婦人協会が治安警察法第五条の改正を議会に請願し、世界の社会情・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ まったく全体として女の日暮しの姿を落付いて、こまかに眺めれば、そこには人生の浪費とも心づかれていないような惰性のうちに、貴い生活力と歳月との消耗がくりかえされています。娘から妻へ、妻から母へと、女の生涯は綿々としてうつりすすみつつある・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・軽工業生産品が出来ないから、したがって農民の買わなければならない消耗品が欠乏する。こんな不自由はいよいよ馬鹿らしいと、農民は、益々播種面をちぢめ、耕地に草は伸び放題。ソヴェト生産の鋏は、順当な交互作用を失って開きっぱなしという危機に立ち到っ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・様、更に現実はあれより複雑故、一番広い視野で先を見通すものが、こういう中では疲れ、そしてあるところでそのものとしての限度を見出し、それ以上の力こぶは入れても事情は改善されぬと見きわめないと徒らな精力を消耗するのです。叱れるうちはまだよいとい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 雑誌をかりに来てしゃべっていたエレーナが、年若い糖尿病患者の消耗性で輝やいた眼でターニャを見ながら、 ――お産の仕度にいくら貰えるの? お前さん。と訊いた。 ――誰でも月給の半分まで。……でも九ヵ月牛乳代をくれるんです。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 歴史の大きいうねりが、個々の生涯を当人たちの希望にかけかまいなく運び去る事実、あまたの生涯を浪費消耗してゆくすさまじさは現前の事象であるけれど、時空的な流れの描写に人間が添景として扱われるということが、人間の歴史の本質において人間が添・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 銃後の婦人に求められている緊張、活動とその性質と、これらの消耗品との性質を対比したとき、私たち女の胸に快き納得を実感することはいささかむずかしいのである。晩秋に芳しいさんまを、豆にかえて、戦場の人々を偲びながら子供らに食べさせる物価騰・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・葛藤が女性を文学以前において消耗する力は、何とおそろしく執拗だろう。そのたたかいの間から漸々いくらかずつ自身の文学を成長させて来ている事実は、現在私たち同時代の婦人作家の殆ど総てが、女性として結婚生活の経験の上に何かの形でそれぞれの痕をもっ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ 女性の勤労がひろまり高まるにつれて、文化の面でも女性の動きが現れるのは自然だけれども、その勤労が女性の歴史の成長にとってただの消耗であってはならないように、女性の書く本が目の先の過ぎゆく文化的泡沫であったりしては悲しいと思う。 も・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
出典:青空文庫