・・・即ち、生き得る条件の下に置かれざる者にも、一律的に消費の義務をはたさせようとするが如き、これです。たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつある・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・物資に欠乏していないのにかゝわらず、物資をその上にも輸送し、輸入するために、トラックを走らせたり、すべてが、必然に迫っていないにかゝわらず、一刻を争ったりしているように、その多くが、いたずらに、動き、消費しつゝあるのではないかというような疑・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・ その夜、歌舞伎座から、遁走して、まる一年ぶりのひさごやでお酒を呑みビールを呑みお酒を呑み、またビールを呑み、二十個ほどの五十銭銀貨を湯水の如くに消費した。三年まえに、ここではっきりと約束しました。ぼくは、出世をいたしました。よい子だか・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・中学の終りからテニスを始めていたぼくは、テニスのおかげで一夜に二寸ずつ伸びる思いで、長身、肥満、W高等学院、自涜の一年を消費した後、W大学ボート部に入りました。一年後ぼくはレギュラーになり、二年後、第十回オリンピック選手としてアメリカに行き・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ティモシェンコのあげた例では千八百メートルの陽画映写フィルムを作るために六千メートルの陰画が消費されている。使ったもののやっと三割だけが役に立つ勘定である。これは非常なきびしい選択であると言わなければならない。しかしできあがった最後の作品の・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・機械文化の頂点を示すべき映画の中で、一人の職工は有り余っているべき動力の洪水の中にいながら、最も原始的なその筋肉エネルギーを極度に消費して大きなダイアルの針を回し、そうして、疲れ切って倒れ、そのために大破壊が起こったりする。あの魯鈍な機械に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・始末のつかない闘争は勢力のむだな消費であり、自然界に行なわれる経済の方則に合わないような気がする。それで、この映画の大蛇と虎のけんかはやはり人間の仕組んでやらせた見世物興行ではないかという気がしないでもない。しかしこの映画を見ている時には、・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・試験前などには別して砂糖の消費が多かったようである。月日がめぐって三十二歳の春ドイツに留学するまでの間におけるコーヒーと自分との交渉についてはほとんどこれという事項は記憶に残っていないようである。 ベルリンの下宿はノーレンドルフの辻に近・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・この場合には自分のわずかな時間と労力の節約のために他の同乗者のおのおのから数十秒ずつの時間を強要し消費することになるのである。これも遠慮したほうがよさそうに思われる。 しかし、昇降機のほうから言えば何階で止まるも止まらぬのもたいした動力・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・またストーヴがあるにはあっても、その部屋の容量を考慮に入れないで瓦斯消費量のみを考慮に入れたようなストーヴだと効果はやはり同様である。そういう寒い部屋で相対坐している主人に百パーセントの好意を感じようとするのは並々ならぬ意志の力を必要とする・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
出典:青空文庫