・・・そういう精神が涵養されなかったために未だに日本新文学が傑作を生んでいない。あなたはもっと誇りを高く高くするがいい。永野喜美代。太宰治君。」「わずかな興を覚えた時にも、彼はそれを確める為に大声を発して笑ってみた。ささやかな思い出に一滴の涙・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・こんなことから考えてみると、我国固有の国民思想を保存し涵養させるのでも、いつまでも源平時代の鎧兜を着た日本魂や、滋籐の弓を提げた忠君愛国ばかりを学校で教えるよりも、時にはやはり背広を着て折鞄でも抱えた日本魂をも教える方がよくはないかという気・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・それがこのごろでは、国民思想涵養の一端というのであろうか、警察の許可を得て、いつのまにか復旧されて来たように見えるのである。 H温泉旅館の前庭の丸い芝生の植え込みをめぐって電燈入りの地口行燈がともり、それを取り巻いて踊りの輪がめぐるので・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・そうして土着した住民は、その地形的特徴から生ずるあらゆる風土的特徴に適応しながら次第に分化しつつ各自の地方的特性を涵養して来たであろう。それと同時に各自の住み着いた土地への根強い愛着の念を培養して来たものであろう。かの茫漠たるステッペンやパ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・特に、民衆の個性、自発性の涵養の問題は常にソヴェトにおける文化問題の究明に際して最前面に出されているのであるから。彼は、それらの現象の本質の把握において誤ったことで遂に全体さえも誤ってしまった。 更に、ジイドの混乱の心理的原因として、旅・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・あらゆる箇性の天分を涵養することを以て主眼とする学校教育は、彼女に希望を表現するに適当な手段方向を教えましょう。純正な宗教観から見れば、とかく云うべきことはあっても教会は、徒に狭い階級的、種族的生活からは一段高く、人類の心から人生を観ること・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・我が番組編成の指導方針は事業創始当初より一貫して神ながらの我が国民精神の涵養を基調とし日本文化の普遍と向上を期するにあるのは云う迄もない所である」とされている。指導方針によって放送審議会がこの大綱を定め、中継番組は放送編成会が働き、ローカル・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫