・・・それがいつとはなしに自然淘汰のふるいにでもかけられたかのようにいろいろな異分子が取り除かれて五と七という字数の交互的連続に移って行っている。こういう現象は決して権勢の力や金銭の力で招致することのできないものであって、やはり進化論的の意味での・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・上層と下層における魚類の色を自然淘汰によって説明した動物学者があるが、その基礎とするところは海中における光の吸収の研究である。また海岸の森林が魚類に如何なる影響があるかという問題があるが、これもいわゆる魚視界と名づける光学上の問題が多少関係・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・そこで材料は第二段の淘汰を受けることになる。次には前々句よりももっと前の句列いったいへの考慮であって、そこにはたとえば人事の葛藤があまり多く連続しておりはしないか、あまりに多くの客観的風物がもたれ込んでおりはしないかを考えて、そこでさらに第・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 出版不況は、戦後の浮草的出版業を淘汰したと同時に、同人雑誌の活溌化をみちびき出している。「先輩たちが同人雑誌を守って十年十五年と修業したのち、やっと文壇に出られた」そのような「同人雑誌本来の面目にかえる日が来たことを」火野葦平はよろこ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・或は又、父自身が帰って来て、その辺につみ重ねてある不用の来信を整理するとき、例の調子で自分から破って淘汰の仲間入りをさせてしまったこともあったでしょう。 今日、私共にとって纏った記念としてのこっているのは、明治三十七年一月から明治四十年・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・けれども、その絵の見えなくなった動機が画家そのひとの内部から自発したものでなかったり、ジャーナリズムの文化的成長の表現としての淘汰でなかったりして、全く外部の影響で、きょうは何でも云えるというようなもののちからで消されたとあれば、それにはや・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・ やがて、せまい町の裏通りにまでモーターの音をさせていた便乗景気に、淘汰が行われて来た。企業整備という名でいわれたその淘汰は、喘ぎながらも便乗していた街の小工場、小ブローカーをつぶして、より大きい設備と資本に整備した。戦争が進むにつれ、・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・科学者の或る者は、自然の大律である淘汰の原則によって、そうであると云うかも知れません。生物学的の立場からのみすれば、その言も正しいかも知れない。けれども、思想の上から見ると、これ等、殆ど悲劇的な離反の大部分は皆各自の生活を、悠久な人類の歴史・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が櫓の真似して、筋骨が暴馬から利足を取ッているあんばい、どうしても時世に恰好の人物、自然淘汰の網の目をば第一に脱けて生き残る逸物・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・日本の文芸の作品は世界的な広い視野のなかでもっと厳重に淘汰されてよいのである。先生が思い切ってそれをやろうとせられなかったことは、今考えても惜しい気がする。 先生が京都で講義せられていたときのことを後に成瀬無極氏から聞いたことがある。成・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫