・・・殊に、現在の、深刻な農業恐慌の下で、負担のやり場を両肩におッかぶせられて餓死しないのがむしろ不思議な農民の生活、合法無産政党を以て労農提携の問題をごま化し去ろうとする社会民主主義者共の偽まんを突破して真に階級性を持った提携に向って進んでいる・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・をしようか、これは明末の人の雑筆に出ているので、その大分に複雑で、そしてその談中に出て来る骨董好きの人や骨董屋の種の性格風ふうぼうがおのずと現われて、かつまた高貴の品物に搦む愛着や慾念の表裏が如何様に深刻で険危なものであるということを語って・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ よく小説にあるように、俺たちは何時でもむずかしい、深刻な面をして、此処に坐ってばかりいるわけではないのだ。この決してズロースを忘れない娘さんに対する毎日々々の「期待」が、蒸しッ返えしの長い長い二十九日を、案外のん気に過ごさしてくれたよ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・お自重すべし、石に矢の立つ例も有之候云々、という激励のお言葉を賜り、先生はどんなに私を頭の悪い駄目な男と思っているのか、その短いお便りに依って更にはっきりわかったような気がして、有難く思うと共に、また深刻に苦笑したものであった。けれども、私・・・ 太宰治 「佳日」
・・・んの奥様のこと、井伏さんのこと、井伏さんの奥さんのこと、家人の叔父吉沢さんのこと、飛島さんのこと、檀君のこと、山岸外史の愛情、順々にお知らせしようつもりでございましたが、私の話の長びくほど、後に控えた深刻力作氏のお邪魔になるだけのことゆえ、・・・ 太宰治 「喝采」
・・・いまの時勢に、くるしいなんて言って、酒をくらって、あっぱれ深刻ぶって、いい気になっている青年が、もし在ったとしたなら、私は、そいつを、ぶん殴る。躊躇せず、ぶん殴る。けれども、いまの私は、その青年と、どこが違うか。同じじゃないか。としをとって・・・ 太宰治 「鴎」
・・・は比較にならぬほど複雑で深刻な事件とその心理とを題材として取扱っているから、もし成効すれば芸術的に高級なものになり得るはずであるが、同時にこれを娯楽のための映画として観ると、観たあとの気持はあまり健全な愉快なものではないはずである。「泉・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・しかし本来はそれどころか実に深刻な時代世相の端的描写であり、そうして支配階級よりはより多く被支配階級の悲痛な忍苦の表現をもそれらの中に看取することができるのである。 こういう、エイゼンシュテインのいわゆる映画術の骨髄を昔から伝えきたった・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・わたくしは上陸したその瞬間から唯物珍らしいというよりも、何やら最少し深刻な感激に打たれていたのであった。その頃にはエキゾチズムという語はまだ知ろうはずもなかったので、わたくしは官覚の興奮していることだけは心づいていながら、これを自覚しこれを・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・全村尽く破滅したその故郷に遊び、むかしの静な村落が戦後一変して物質的文明の利器を集めた一新市街になっているのを目撃し、悲愁の情と共にまた一縷の希望を感じ、時勢につれて審美の観念の変動し行くことを述べた深刻な一章がある。 災後、東京の都市・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
出典:青空文庫