・・・ 今後第四階級者にも資本王国の余慶が均霑されて、労働者がクロポトキン、マルクスその他の深奥な生活原理を理解してくるかもしれない。そしてそこから一つの革命が成就されるかもしれない。しかしそんなものが起こったら、私はその革命の本質を疑わずに・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・人が思考する瞬間、行為する瞬間に、立ち現われた明確な現象で、人力をもってしてはとうてい無視することのできない、深奥な残酷な実在である。七 我らはしばしば悲壮な努力に眼を張って驚嘆する。それは二つの道のうち一つだけを選み取って・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・ さらば僕はいかに観音力を念じ、いかに観音の加護を信ずるかというに、由来が執拗なる迷信に執えられた僕であれば、もとよりあるいは玄妙なる哲学的見地に立って、そこに立命の基礎を作り、またあるいは深奥なる宗教的見地に居って、そこに安心の臍を定・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・見ずや、きみ、やかなの鋭き匕首をもって、骨を削り、肉を裂いて、人性の機微を剔き、十七文字で、大自然の深奥を衝こうという意気込の、先輩ならびに友人に対して済まぬ。憚り多い処から、「俳」を「杯」に改めた。が、一盞献ずるほどの、余裕も働きもないか・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・日本人を生んだ自然とその中における生活とがあってしかる後に生まれ出た哲学宗教思想や文学芸術に関する詳細な深奥な考察については、私などよりは別にその人に乏しくないであろうと思われる。 日本の自然 日本における自然界の特・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・余は彼女の面前にありて一種深奥なる悲哀を感ず。彼女のすべては余に美しく見ゆ。余は今に至るまで彼女を愛しき。されども今日は単に彼女を愛すてふそれにては余の心は不満を感ずるなり。さらば余は彼女を恋せるなるか。叱! 神よ、日記は爾が余に与へ給へる・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 自分は、どれ程それを自らの深奥にある愛に対して愧じ、苦しむことでしょう。 若しその朋友が、秀でた叡智と洞察とを以て人間を見得る人なら、事は未然に防がれると同時に、自己の進退を弁えていましょう。 けれども、人間は、必ずいつも正義・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・は、小説らしくない小説を書いて見せるという極く所謂小説家らしい方法、の肯定となるのではなくて、野暮に、自分が一人の人間としてこの人生に求めているものを手ばなすことなくまもって行くことで、愈々益々現実の深奥を広く描き出してゆくしか小説の道はな・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・ここに、日本の文化の深奥において、思想性はいまだ確立されていなかった過去の悲劇的な投影があるのである。 あらゆる時期と場合にあらゆる変形をもって、合理的な判断を守り、沈黙することは決して思索し、批判することをやめることではない。思想は、・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・ この恐るべき三年間を始りとして、バルザックは終生近代資本主義経済の深奥のからくりにふれざるを得ない立場におかれるようになった。彼は金の融通の切迫した必要から銀行の組織に精通し、パリじゅうの高利貸と三百代言を知り、暫くではあるが公債のた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫