・・・ けだし意味深遠なる著書は読者の縁もまた遠くして、発兌の売買上に損益相償うを得ず、これを流行近浅の雑書に比すれば、著作の心労は幾倍にして、所得の利益は正しくその割合に少なし。大著述の世に出でざるも偶然に非ざるなり。いずれも皆、学問上には・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・クリスト教国に生れて仏教を信ずる所以はどうしても仏教が深遠だからである。自分は阿弥陀仏の化身親鸞僧正によって啓示されたる本願寺派の信徒である。則ち私は一仏教徒として我が同朋たるビジテリアンの仏教徒諸氏に一語を寄せたい。この世界は苦である、こ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ この死によって私は、殊に近来夫婦関係というような事に就いていろいろの事を考えて来ましたが、私共の機械的な日常生活の中に、こんな深遠な境地が係らわっていることか、と深く深く胸を撲たれました。そうして有島さんの最近の作物「二つの心」などを・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・ 静かに太陽の健な呼吸を聞き、月の深遠な光明に身をひたして居ると口にまでつくせぬ、複雑な美に打たれるのである。 日々を、心ならずもいやな事、心を悩ます事の多い中で暮して居るのであるから、どこの廃市にも、満ち満ちて居る自然美になつかし・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・ 肇に対して自分の知識を深遠なものにし、自分の思想と云うものを尊いものにして置きたい千世子はあんまり不用心に知って居るだけの事は話さない。 お互に或る無形の鏡を持って照し合わせ様として居るのを又お互に知って居た。 時々亢奮し・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・制度、社会的組織を創る人間の心のもう一歩奥にあるものを本能と呼ぶなら、その本能を発動させる源、深遠な自然力とも云うべきものが、見えない底の底でこの問題に働きかけているのではあるまいかと思われます。従って、人生を素直に感じ人の力も自然の力も素・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫