・・・人民の一人一人を吊りあげることも出来ると威嚇した人権蹂躪制度とその施設が無力なものとさせられてゆく姿をうつしたこのニュース映画は、素朴な描写のうちに溢れる濤のような自由への渇望を語っていた。 そのような新しい潮におされて、まだ日本独特の・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・と云われる現代では、なんとなく個人的な開花を渇望する気分があります。インテリゲンチャには、とくにこのことが強く感じられるために、却って全体としての前進に躊躇する気分もあります。しかし、日本の歴史は、遅れているだけ二重にかさなった早い面がある・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・――その望みが協って、此程、僅かな日数ではあったが、其処に滞在して、一種の渇望を満たすことが出来たのは、此上ない幸福でありました。 元来、旅行好きな私は、いま迄、随分色々な処を訪れて見ましたが大抵は失望しました。いつも私の想像したツマリ・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・特に今日の東半球の波瀾は、読者の心に渇望に近いその要求を呼びさましているのである。 私たちの常識が受けている苦痛は、過去の歴史が、いつも地球を西と東とにわけて語られている点である。東西を一貫し互に照応し合う歴史的現実として綜合的に掴んで・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・もっと突込んで、痛烈に、愛の無い冷酷な社会的偽善としての結婚の形態の内幕と、無方向に迸る激しい愛の渇望の悲劇を描いたものであった。トルストイが彼の貴族地主としての生活環境の中で、結婚と家庭生活の実体を厳しく省察したとき、人道主義的な立場から・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・人間とし、男が天性に従って仕事を選び、その仕事の裡に、ただ、食い、眠り、死んで行く箇体の生物的生存以上の生命を見出して行くと全く同じに、女性の中にも、内心のやみがたい性格的渇望に押されて、仕事を、持たずにいられない多数の人が出来て来たのです・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・従って金銭がブルジョア生活の動力となり、又同時に万人の渇望の対象となった」激烈な時代であった。 七月革命で、ブルジョアジーの利害の代表者としてのルイ・フィリップが王位に置かれた後は財界の覇者、金銭の威力は極度にふるわれ、企業家で金持ちの・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・彼等がそういう歩きつきになるのは出来るだけ長く監房の外に出ている時間をもちたいという、我知らぬ渇望からであった。きまった通路を、きまった場所へ、きまった目的のために、きまった時間内にしか歩かせられない。一本の通路の、どっち側を歩くかというこ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ バックはこの作品で、アメリカが、社会的な気風の特長の一つとしていつも社会全体にとっての英雄を渇望していて、何か偶然のきっかけでそのような英雄にまつりあげられた平凡な一市民は、そのためにドライサアの「アメリカの悲劇」では主人公クライドに・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・Im Schnen, Im Guten, Im Ganzen resolbt zu leben の境地、神にあくがれて全きものたらんとする渇望、人を全能なる人格に Converge し、厳粛なる宇宙の真趣に歩一歩迫るが理想である。肉体の満足・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫