・・・実際脳の灰白質を養う血管の中の圧力がどれだけ減るのかあるいは増すのかわからないが、ともかくもそんな気がする。そうしてなんとなく空虚と倦怠を感じると同時に妙な精神の不安が頭をもたげて来る。なんだかしなくてはならない要件を打ち捨ててでもあるよう・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ こういう新聞広告がなくなっても、芝居やキネマの観客が減る心配はないという事は保証ができる。興行者と常習的観客の間には必ず適当な巧妙な通信機関がいろいろとくふうされるに違いない。 その他の多くの広告はたいてい日刊新聞によらなくてもす・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・という取締規則でも設けたら、それだけでも自殺者の数が二割や三割は減るのではないかという気がする。試験的に二三年だけでもそういう規則を遂行して後に再び統計を取ってほしいものである。 十九 入水者はきっと草履や下駄を・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・諸所放浪しているうちに、或日、或時、或村へ差しかかると、しきりに腹が減る。幸ひっそりとした一構えに、人の気はいもない様子を見届けて、麺麭と葡萄酒を盗み出して、口腹の慾を充分充たした上、村外れへ出ると、眠くなって、うとうとしている所へ、村の女・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・そのうち動物を食べないじゃ食料が半分に減る。いかにもご尤なお考ではありますが大分乱暴な処もある様であります。動物と植物と半々だ、これがまずいけません。半々というのは何が半々ですか。多分は目方でお測りになるおつもりか知れませんが目方で比較なさ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・よって、いよいよ勤労生活に安定が保障されているような社会ならば、したがって、太い潮が細々とした流れを吸いあげてしまうような金づまりだの、手にもっている御飯の茶碗をはたき落されるような馘首がおこる原因も減ることは明白である。 失業の不安で・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・それどころかコンムーナへ新規に入って来る者なんぞは一月に二三キロも目方が減るぐれえなもんだ。これでよく分る、『ブルスキー』へどんな連中がより集まったか。懶けもんだ! 天からマンナが降るのを待ってるみてえだ。ブルスキーの連中は自分で云っている・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 戸主ということになると四百万票減るのだそうである。 日本の社会の習俗のなかで、女の戸主というものは実に複雑な立場を経験していると思う。友達のなかに三人ほど戸主である女性があって、そのひとたちの生活もいりくんだものとなっている。・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・何かで、下駄の前歯が減るうちは、真の使い手になれぬと剣道の達人が自身を戒めている言葉をよんだ。 マヤコフスキーの靴の爪先にうたれた鋲は、彼の先へ! 先へ! 常に前進するソヴェト社会の更に最前線へ出ようと努力していた彼の一生を、実に正直に・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・こうして、労働時間が少なくなると、すぐ給料の減るのがブルジョア国のおきまりだ。が、ソヴェト同盟は五ヵ年計画で工場を電化し、優良機械を使用し、生産能率があがればあがる程、国が金持ちになればなる程労働者が直接賃銀としてそのわけ前を得る分量が殖え・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
出典:青空文庫