・・・軒前には、駄菓子店、甘酒の店、飴の湯、水菓子の夜店が並んで、客も集れば、湯女も掛ける。髯が啜る甘酒に、歌の心は見えないが、白い手にむく柿の皮は、染めたささ蟹の糸である。 みな立つ湯気につつまれて、布子も浴衣の色に見えた。 人の出入り・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ さてこれは小宮山良介という学生が、一夏北陸道を漫遊しました時、越中の国の小川という温泉から湯女の魂を託って、遥々東京まで持って参ったというお話。 越中に泊と云って、家数千軒ばかり、ちょっと繁昌な町があります。伏木から汽船に乗ります・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・、百穂の二、三の作、麦僊の「湯女」などがある。それから少し方面はちがうがあまり評判のよくなかった芋銭の「石人」などからも何事かを教えられた。まだ外にも数えてみれば存外あるかもしれない。しかし例えば神代や仏教を題材にとったのや武将や詩人を題に・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫