・・・そんな容子で、一日々々、このごろでは目もあてられませんように弱りまして、ろくろく湯水も通しません。 何か、いろんな恐しいものが寄って集って苛みますような塩梅、爺にさえ縋って頼めば、またお日様が拝まれようと、自分の口からも気の確な時は申し・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・「この砥石が一挺ありましたらあ、今までのよに、盥じゃあ、湯水じゃあとウ、騒ぐにはア及びませぬウ。お座敷のウ真中でもウ、お机、卓子台の上エでなりとウ、ただ、こいに遣って、すぅいすぅいと擦りますウばかりイイイ。菜切庖丁、刺身庖丁ウ、向ウへ向・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ その夜、歌舞伎座から、遁走して、まる一年ぶりのひさごやでお酒を呑みビールを呑みお酒を呑み、またビールを呑み、二十個ほどの五十銭銀貨を湯水の如くに消費した。三年まえに、ここではっきりと約束しました。ぼくは、出世をいたしました。よい子だか・・・ 太宰治 「狂言の神」
どんなひとも、贅沢がいいことだと思っていないし、この数年間のように多数の人々が刻苦して暮しているのに、一部の人ばかりがますます金銭を湯水のようにつかう有様を目撃していれば、いい気持のしないのは自然だと思う。今度の贅沢品禁止・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ 棚のだるま棚下しひげのおじさん貴方はマア何と云うどえらい御方だろう朝でも晩でも欲の皮つっぱりきったねがいごとそれかなわぬとあたりつけわしに湯水も下さらぬ…… 片っぽ目玉のそめられた ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫