・・・ 知識の真の源泉は生そのものの直接の体験と観察から生まれるものであることを忘れてはならない。「直接にそしてラディカルに」このモットーを青年時代から胸間に掲げていなくてはならぬ。 けれどもいうまでもなく個人がすべてを実地に体験し得るも・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・この本は、彼女の空想の源泉であるという。空想力が枯渇すれば、この本をひらく。たちまち花、森、泉、恋、白鳥、王子、妖精が眼前に氾濫するのだそうであるが、あまりあてにならない。この次女の、する事、為す事、どうも信用し難い。ショパン、霊感、足のバ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・たよりない幼いものに対する愛憐の情の源泉がやはり本能的なものだということが、よくのみ込めるような気がする。 こういう映画はいくらあっても決して有り過ぎる心配のないものであろう。編集の巧拙などはほとんど問題にしなくてもよいかと思われる。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ それとほぼ同じようなわけで、もはや青春の活気の源泉の枯渇しかけた老年者が、映画の銀幕の上に活動する花やかに若やいだキュテーラの島の歓楽の夢や、フォーヌの午後の甘美な幻を鑑賞することによって、若干生理的に若返るということも決して不可能で・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・ こうした外国仕入れの知識は何といっても貧弱であるが、手近い源泉から採取した色々の知識のうちで特に目立って多いものは雑多なテクニカルな伝授もの風の知識である。例えば『永代蔵』では前記の金餅糖の製法、蘇枋染で本紅染を模する法、弱った鯛を活・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ これらの根本的決定因子を知るには一体どこを捜せばよいかというと、それはおそらく颱風の全勢力を供給する大源泉と思われる北太平洋並びにアジア大陸の大気活動中心における気流大循環系統のかなり明確な知識と、その主要循環系の周囲に随伴する多数の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ しかし、川の流れをさかのぼって深い谷間の岩の割れ目に源泉を発見した場合にいわゆる源泉の探究はそれで終了したとしても、われわれはその泉の水が決して突然そこで無から創造されたものではなくて、さらに深く地下の闇の中にその出所を追究することが・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・他の点はこの一源泉より流露するのであるから、この源頭に向って工夫を下せば他はことごとく刃を迎えて向うから解決を促がす訳である。 社会は人間の塊まりである。その人間を区別すればいろいろできる。貴と賤ともなる。賢と不肖ともなる。正と邪ともな・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・そのような殺しても殺しても生きる命としての抵抗力、強い生活感覚、それこそが、きょうの歴史を生き進んでいるわたしたちの人民的センスであり、抵抗の源泉であると思います。生活と闘いの達人となってゆこうと努力しているわたしたちにとって、理論と行動、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 勤労して生きるすべての人の新しい文学の胎動と可能のめざめは、この単純な、どんな感じがしたか、というところに源泉をもっているのである。読ますことは読ますが、どうも。そういう感じもある。ドストイェフスキーってなるほど大したものらしいが、し・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
出典:青空文庫