・・・ある人は言語の有無をもって人間と動物との区別の標識としたら宜いだろうと云い、またある人は道具あるいは器具の使用の有無を準拠とするのが適当だろうという。私にはどちらが宜いか分らない。しかしこの言語と道具という二つのものを、人間の始原と結び付け・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・ただ不幸にしてこの場合には物理学の場合のように確実な物理の方則に準拠した「補正」の代わりに、個々の記者のいわゆる常識による類型化の主観的方便によるよりほかに一つもたよりになるような根拠がないからいささか心細いと言わなければならない次第である・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・この小品は気分本位の夢幻的なものであって、必ずしも現行の法令に準拠しなければならない種類のものでもないし、少なくも自分の主観の写生帳にはちゃんと青い燈火が檣頭にかかったように描かれているから仕方がないと思ったのである。 去年の暮には、東・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・そのように少なくも二千年かかって研究しつくされた結果に準拠して作られた造営物は昨年のような稀有の颱風の試煉にも堪えることが出来たようである。 大阪の天王寺の五重塔が倒れたのであるが、あれは文化文政頃の廃頽期に造られたもので正当な建築法に・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・て汽車では通れなくなっているところをも街道を草鞋ばきで目的地へ行きつける場合もあること、しかし汽車があるのにちょんまげつけて歩く方を選ぶという方法の唾棄すべきこと、並に、史実は甚だ重要ではあるが唯一の準拠的なものではないそれ故「史実」と相異・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫