・・・求める心を内に抱いて、外はいくらか結晶性なのが――という意味は化合するまでには溶解することを要するという意味なのが相応しい気がする。それは「結ばれやすい」という性質は一方また「離れやすい」という性質にもなるので感情過多いわゆる水性ということ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・雨は落ちて来しなに、空中の有毒瓦斯を溶解して来る。 長屋の背後の二すじの連山には、茅ばかりが、かさ/\と生い茂って、昔の巨大な松の樹は、虫歯のように立ったまゝ点々と朽ちていた。 灰色の空が、その上から低く、陰鬱に蔽いかぶさっていた。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・そうして、それを投入した上で、よく溶解し混和するようにかき交ぜなければならない。考えてみるとこれはなかなか大変な仕事である。 こんな事を考えてみれば、毒薬の流言を、全然信じないとまでは行かなくとも、少なくも銘々の自宅の井戸についての恐ろ・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・空想は重く、思惟は萎えてただ 只管のアンティシペーションが内へ 内へ肉芽を養う胚乳の溶解のように融け入るのだ。 L、F、H子供らしい真剣で白紙の上に私は貴方の名と自分の名とを書きました。・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
出典:青空文庫