・・・「どうしても遇えないでございましょうか?」 お蓮に駄目を押された道人は、金襴の袋の口をしめると、脂ぎった頬のあたりに、ちらりと皮肉らしい表情が浮んだ。「滄桑の変と云う事もある。この東京が森や林にでもなったら、御遇いになれぬ事もあ・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・私はほとんど雀躍しました。滄桑五十載を閲した後でも、秋山図はやはり無事だったのです。のみならず私も面識がある、王氏の手中に入ったのです。昔は煙客翁がいくら苦心をしても、この図を再び看ることは、鬼神が悪むのかと思うくらい、ことごとく失敗に終り・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・わたくしがこの文についてここに註釈を試みたくなったのも、滄桑の感に堪えない余りである。「忍ヶ岡」は上野谷中の高台である。「太郎稲荷」はむかし柳河藩主立花氏の下屋敷にあって、文化のころから流行りはじめた。屋敷の取払われた後、社殿とその周囲・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫