・・・地形がいい工合に傾斜を作っている原っぱで、スキー装束をした男が二人、月光を浴びながらかわるがわる滑走しては跳躍した。 昼間、子供達が板を尻に当てて棒で揖をとりながら、行列して滑る有様を信子が話していたが、その切り通し坂はその傾斜の地続き・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・あまの岩戸を開けるような恰好して、うむと力こめたら、硝子戸はがらがらがら大きな音たてて一間以上も滑走し、男爵は力あまって醜く泳いだ。あやうく踏みとどまり、冷汗三斗の思いでこそこそ店内に逃げ込んだ。ひどいほこりであった。六、七脚の椅子も、三つ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・直線運動としては囚徒や職工の行列、工作台上の滑走台、ジュアンヌの机の前の壁を走り上る数字の列等が著しいモチーフとして繰り返される。円形運動ではレコードや、ダイアルの回転があるほかに、新工場開場式のクライマックスに吹き起こる狂風の複雑な旋転的・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そこを、ゆるゆる地平線に向って滑走中の飛行機のようなコンバインが進行している。 古貨車を利用してこしらえた農業労働者のキャンプのわきには、炊事車が湯気を立てている最中だ。 婦人労働者の派手な桃色のスカートが、炎天のキャンプの入口にヒ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・善かさもないものはただちに悪と、固定された、ただふたすじのみちが、もし、特定のものの便宜のために日本の人民の理性の上に敷設されるなら、それは、人を生き埋めにした上につくられた滑走路のようなものになるだろう。社会の発展の過程にあらわれる善と悪・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
出典:青空文庫