・・・だが、この椿岳の女道楽を単なる漁色とするは時代を無視した謬見である。 椿岳は物故する前二、三年、一時千束に仮寓していた。その頃女の断髪が流行したので、椿岳も妻女の頭髪を五分刈に短く刈らして、客が来ると紹介していう、これは同庵の尼でござい・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ましてすでに結婚後の壮年期に達したるものの恋愛論は、もはや恋愛とは呼べない情事的、享楽的漁色的材料から帰納されたものが多いのであって、青年学生の恋愛観にとっては眉に唾すべきものである。 結婚後の壮年が女性を見る目は呪われているのだ。たと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ぐうだらの漁色家。 私は、「おめん!」のかけごえのみ盛大の、里見、島崎などの姓名によりて代表せられる老作家たちの剣術先生的硬直を避けた。キリストの卑屈を得たく修業した。 聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・世紀の近代社会の勃興期におけるロマンティシズムのような、現実へ働きかける情熱としてではなく、今日の分裂的な恋愛、とくに日本においては、逞しい生活意欲という仮装面の下に、危うく過去のあり来りの男の凡俗な漁色の姿をおおいかくしている結果になる。・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫