・・・た新聞小説が映画化されると、文壇の常識を破って、自分で脚色をし、それが玄人はだしのシナリオだと騒がれたのに気を良くして、次々とオリジナル・シナリオを書いたのをはじめ、芝居の脚本も頼まれれば書いて自分で演出し、ラジオの放送劇も二つ三つ書きだし・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・もとは售れぬ戯曲を二つか三つ書いていたようだったが、今は戯曲のほかに演出にも手を出す。舞台装置もする。映画の仕事もする。評論も書く。翻訳も試みる。その片手間に随分多量の小説も発表するが、べつだん通俗にも陥らず、仕事のキメも存外荒くはない。ま・・・ 織田作之助 「道」
・・・と答えたが、その実、素人劇の脚本を昨年頼まれて書き演出もした。満更でもないと思った。いろいろ楽みで、なかなか死ねないと思う。 織田作之助 「わが文学修業」
・・・しかし監督がよければ、演出次第で芝居としても成功しないはずはないと思うのだが、どういうものか。 ともかくもこの戯曲は純情がどれだけの作を産み得るかの指標といっていいだろう。それを取り去れば、この作はつまらないものだ。だから反言や、風刺や・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・ キリストの磔刑を演出する受難劇の場面で始まるこのフランス映画には、おしまいまで全編を通じて一種不思議な陰惨で重くるしい悪夢のような雰囲気が立ち込めている。これはもちろんこの映画の題材にふさわしいように製作者の意図によって故意にかもし出・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ある人の説のごとく、芸術は在るところのものの再出現ではなくて、在ってほしいものへの意欲の演出であるとすれば、これらの映画はヤンキーにとっては最高の芸術である。これらの映画を見ることはすなわち観客みずから踊り歌い、放縦な高速度恋愛をし、やたら・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・のニュースが見つからない場合に、めんどうな脚色と演出によって最もセンセーショナルな社会面記事に値するような活劇的事件を実際にもちあがらせそれがためにかわいそうな犠牲者を幾人も出したことさえ昔はあったといううわさを聞いたことがある。ジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・私のひそかに考えているところでは、枕詞がよび起こす連想の世界があらかじめ一つの舞台装置を展開してやがてその前に演出さるべき主観の活躍に適当な環境を組み立てるという役目をするのではないかと思われる。換言すればある特殊な雰囲気をよび出すための呪・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・カルメンの完全なる演出は仏蘭西人を俟たねばならぬが如く、トリスタンは独逸人でなければならぬであろう。わたくしは曾て米国に在った時米国の俳優の演ずるモリエールの戯曲を聴くことを好まなかった。それと同じ理由から、わたくしは日本語に翻訳せられた西・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・されど真淵一派は『万葉』を解きて『万葉』を解かず、口には『万葉』をたたえながらおのが歌は『古今』以下の俗調を学ぶがごときトンチンカンを演出して笑を後世に貽したるのみ。『万葉』が遥に他集に抽んでたるは論を待たず。その抽んでたる所以は、他集の歌・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫