・・・何故なら特別な一部の人々を除いた大多数の読者は、読者自身何もはっきりとした判断のよりどころというものを持っていないのであるが、漠然この現実とブルジョア文学だけではあきたらぬ心持を托して読むのであるから、一方からいうとプロレタリア文学は今日些・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ そんな断り書をつける位なら、漠然として、現実の影響力のない本文かというと、どうして。筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 自ら尾世川の心にも漠然とした感慨が湧いて来たらしく、彼は暫く黙り込んで、自分の鼻から出る朝日の煙を眺めていたが、「――そろそろ始めましょうか」 吸殻を、灰の堅い火鉢の隅へねじ込んだ。尾世川のところにはたった一つ、剥げかけた一閑・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ 腰をかがめてその声の方を覗き、ジェルテルスキーは意外さと漠然とした当惑とで、「おお」 蒼白い顔を少し赧らめた。再び金髪をかき上げる暇もなく、彼はブーキン夫人の有名な饒舌に捕まった。「ああ、レオニード・グレゴリウィッチ! お・・・ 宮本百合子 「街」
・・・人民の諸権利についての具体的条項は、漠然としてしか扱われていない。ましてや、この特異な日本憲法において、全人口の半ばを占める女子の社会的地位を、男女平等の人民として規定しているような条項は、一つもないのである。それは、明治というものの本質か・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・との主義はあまりに漠然たるものである。絶対の物質超越は死に至る。吾人は死を辞せない、死を恐れない。ただ霊的執着のために此世に活き此界に動く。ゆえに吾人の生活は心霊の光彩を帯びなければならぬ。生活の困難に嘆かず黄金に屈服せざるは死を恐るる人に・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫