・・・これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広義の拡散的漸進的現象に伴なう、不連続的あるいは局発現象であって、従来有りふれの単純な拡散の理論だけでは、間に合わない筋のものであろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・すべてがそのはじめは不精密なる経験の試験的整理を幾重となく折り返し繰り返し重ねて、漸進的に進んで来たものである。その昔、独断と畏怖とが対峙していた間は今日の「科学」は存在しなかった。「自然」を実験室内に捕えきたってあらゆる稚拙な「試み」を「・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・もしも履歴の影響が時とともに速やかに漸進線的に収斂しなかったらどうであろうか。すべての物体は雲煙のごとくまた妖怪変化と類を同じうするだろう。 重量約一匁とか長さ約一寸といえば通例衡り方度り方の粗雑な事を意味する。丁度一匁とかキッチリ一寸・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 政談の中に漸進論と急進論なるものあれども、あまり分明なる区別にも非ず。いずれにも進の義は免かれず。ただ、その進の方法を論じたるものならん。これをたとえば、飢たる時に物を喰うは同説なれども、一方は早く喰わんといい、一方は徐々に喰わんとい・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・私の目下はあの地虫が春が来てひとりでに殼を破って地上に抜け出る、あの漸進的な自然の外脱を得たいと思います。 至純な芸術境にあって死身に仕事が出来れば結構ですが、要するに其も質の問題だと思います。エルマンをお聴きでしたか。世の中に一人あっ・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
出典:青空文庫