・・・言語の根本的な相違は別としても国民的潜在意識の相違は如何ともすることが出来ないのである。それにしてもフランス人やロシア人にはいくらかは俳諧の理解があるということは文献に徴して証明することが出来そうである。しかしおそらくアメリカほど「俳諧の世・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・これらの読み物は自分の五体の細胞の一つずつに潜在していた伝統的日本人をよびさまし明るみへ引き出すに有効であった。「絵本西遊記」を読んだのもそのころであったが、これはファンタジーの世界と超自然の力への憧憬を挑発するものであった。そういう意味で・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ さび、しおり、おもかげ、余情等種々な符号で現わされたものはすべて対象の表層における識閾よりも以下に潜在する真実の相貌であって、しかも、それは散文的な言葉では言い現わすことができなくてほんとうの純粋の意味での詩によってのみ現わされうるも・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・こういう考えから出発して、文芸の中に潜在する科学的要素を捜してみたいと思うのである。 いかなる文芸といえどもその取扱う資料が常識を具えた人間界のものである限り、あらゆる知識中の科学的な分子を排出する事の出来ないのは明らかな事である。第一・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・もしこれがしかるべき心理学者によって研究されればその結果はわれら連句の徒弟に対して興味があり有益であるというだけでなく、一般心理現象中で他の場合にはあまり現われないような特異な潜在的現象を追跡し研究するための一つの新しい道を啓示するような事・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・殺すという言葉には、殺されるものに対して、殺すという立場において、自己の生存保持の意識が潜在している。鈴木文史朗はついこの間アメリカへ行ってリーダーズ・ダイジェスト本社の立派なことを日本に吹聴したが、彼はアメリカで何を学び、どう語ることを学・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・そして、現在でも、フロイドが人間性の自然な解放のために、その心理的、潜在意識的モメントとしてとらえた主として性のコンプレックスは、社会と、個人の精神のうちに存在していることも明かである。だけれども、一方最近の数年間に、世界の市民的な生活感覚・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ ヨーロッパ大戦後の文学を支配していた心理分析、潜在意識の生活を追究する唯心的な文学は、一九二九年のヨーロッパの大恐慌とその社会事情の変化によって別な人間生活の総体において表現しようと欲する文学運動に道を拓いた。一九三〇年頃からアメリカ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・学のうまれる母胎としての社会の階層・階級を、勤労するより多数の人々の群のうちに見いだし、社会の発展の現実の推進力をそれらの勤労階級が掌握しているとおり、未来の文化発展も、そこに大きい決定的な可能として潜在していることを理解したのであった。世・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ クニッペルに書かれたいろいろ日常茶飯のこと、チェホフが愛情の濃やかさから書いたそれらの日常茶飯の描写に、我々は彼の短篇の種々なモーティヴの潜在を感じる。 南方の九月のヤルタ、天気がよいのに雨が降ってくる。長くしなしなして、ちょっと・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
出典:青空文庫