・・・けれどもその日本が今が今潰れるとか滅亡の憂目にあうとかいう国柄でない以上は、そう国家国家と騒ぎ廻る必要はないはずです。火事の起らない先に火事装束をつけて窮屈な思いをしながら、町内中駈け歩くのと一般であります。必竟ずるにこういう事は実際程度問・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・自分がそう主張して半馬力のを据えつけたんだから、どうしてもそれでやらなけりゃ面目が潰れるって云うんで、幾度も幾度もなおすんだがね――無理なのさ」「――一馬力ならいいんだって、ね……」 長椅子の隅に丸まって少女雑誌を読んでいた晴子が、・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ 政府はこのモラトリアムをしなければ、日本の経済状態が潰れるとおもってやったのでしょうけれども、一般私たちの経済事情から申しますと、どなたのお家でも、相当にあった貯金なども使い果してしまっている。 例えばいろいろな火災保険であるとか・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・日日は、頻りに投票ハガキの多いこと、為に中央郵便局の消印機が過熱して使用に堪えぬとか、コンクリートの五階が潰れるとか、センセーショナルな記事をかかげる。都会に起ることは知識階級の注意を呼び醒し易いが、この新八景投票のように地方を中心としてい・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ いやがる者をとめて置いて、もうどうせ潰れるにきまったような家と運命を共にさせるには忍びない。 決心しかねて彼が迷っているうちに、話はぐんぐんはかどって、とうとう娘達は五年間の年期で町へ行くことになり、二十五円の金が親達に渡された。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫