・・・それで自然損害の一番ひどい局部だけを捜し歩いて、その写真を大きく紙面一杯に並べ立てるから、読者の受ける印象ではあたかも静岡全市並びに附近一帯が全部丸潰れになったような風に漠然と感ぜられるのである。このように、読者を欺すという悪意は少しもなく・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・は沼の潰れし処。またチャム「ト」は中央「テ」は場所。十市の地名は記紀にもある。穴内 「オンネナイ」は大川。しかしまたチャム語でも「ナイ」は河または河辺の野であり、アイヌやサモア、マオリ語でも「アナ」は穴でもある。戸波 「ペッパロ」は・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・さればいよいよ湯上りの両肌脱ぎ、家が潰れようが地面が裂けようが、われ関せず焉という有様、身も魂も打込んで鏡に向う姿に至っては、先生は全くこれこそ、日本の女の最も女らしい形容を示す時であると思うのである。幾世紀の洗練を経たる Alexandr・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。しかも対等だ。 左右は青田である。路は細い。鷺の影が時々・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・オツベルはケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに潰れていた。早くも門があいていて、グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。「牢はどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん瘠せ・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ 見ると、その白い柔らかな岩の中から、大きな大きな青じろい獣の骨が、横に倒れて潰れたという風になって、半分以上掘り出されていました。そして気をつけて見ると、そこらには、蹄の二つある足跡のついた岩が、四角に十ばかり、きれいに切り取られて番・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・そこらの畑や田はずんずん潰れて家がたちました。いつかすっかり町になってしまったのです。その中に虔十の林だけはどう云うわけかそのまま残って居りました。その杉もやっと一丈ぐらい、子供らは毎日毎日集まりました。学校がすぐ近くに建っていましたから子・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・平ったくてまるで潰れた蕈のようです。どうしてあんなになったんですか。土壌が浅くて少し根をのばすとすぐ岩石でしょう。下へ延びようとしても出来ないでしょう。横に広がるだけでしょう。ところが根と枝は相関現象で似たような形になるんです。枝も根のよう・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・けれども、その笑い声が、潰れたように丘へひびいて、それから遠くへ消えたとき、タネリは、しょんぼりしてしまいました。そしてさびしそうに、また藤の蔓を一つまみとって、にちゃにちゃと噛みはじめました。 その時、向うの丘の上を、一疋の大きな白い・・・ 宮沢賢治 「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
・・・「かえるなんざ、潰れちまえ。」チュンセは大きな稜石でいきなりそれを叩きました。 それからひるすぎ、枯れ草の中でチュンセがとろとろやすんでいましたら、いつかチュンセはぼおっと黄いろな野原のようなところを歩いて行くようにおもいました。す・・・ 宮沢賢治 「手紙 四」
出典:青空文庫