・・・一方、この四五年間における社会情勢の激動はこれまで純文学の読者であった中間層の急劇な経済事情の悪化をもたらした。経済事情の悪化は、原因として日常のこまかいものにまで及ぼしている増税、それに伴う物価の騰貴が直接のきっかけとなっており、増税のよ・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・第一次大戦の末期からその後にかけて市民の文学としての近代文学のうみてである中間層の社会生活は、激動をうけた。その市民としての生活感情が変化したにつれて、文学の精神も表現も、それまでの様相をかえた。 第二次大戦は、更に大規模な破壊と変貌と・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・或るところでその輪は、急速力で一回転二回転して、メイエルホリドらしい、群集の心理激動の描写をやる。 仕事着を着たチュダコフと数人のその仲間の動作は、常に綜合的にリズミカルに統一され、チュダコフの発明した何かの機械は、舞台の上へは形を現わ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 彼は激動の後の静かな心持で、もう恐らくは死ぬまで会う事の出来ないだろう、今飛び去った雌鴨の事を思い出して居た。 此の、ほんの一寸の前までの、彼の幸福彼のよろこびが、今斯うやって命まで投げ出して醜い姿になって居る自分の物だったのだと・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・現代の文学は、世相の激動につれて非常に動揺し、ある意味では文学としての基準を失い、男の作家たちの多数が、卑俗に政治化したり、非文学的な著述業に堕したり、自身の文学的境地打開のための輾転反側に陥った。文学は一見隆盛であって、しかもその実質は低・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ 世界の歴史が激動し、国々の歴史が波瀾を重ねる間にも、私たちが歴史のために役立とうとすれば、窮極は自分という一個の女性を、最大の可能でそれぞれの道と部面とにおいて人及び女として成長させ、能力を発揮して行くことにほかならないということは意・・・ 宮本百合子 「身についた可能の発見」
・・・遮断されていた生活からいきなり激動の三日間を暮し、再び切れ目のない単調な寒さの中にかえって来て縁のない畳が三枚しいてあるところへ坐ると、堪え難い疲労が襲って来た。張りつめた寒さと痺れるような睡たさとで、私は坐ったまま居睡りをし始めた。丁度そ・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・ 自分はこの書を読み始めた時に、巻頭においてまず強い激動を受けた。それは自分がアフリカのニグロについて何も知らなかったせいでもあるが、また同時に英米人の祖先たちがアフリカに対して何をなしたかを知らなかったせいでもある。自分はここにその個・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・彼女が空虚なるカアル劇場に歩み入った時には一人として彼女を知る者はなかったが、その夜、全市の声は彼女の名を讃えてヴァイオリンのごとく打ち震い、全市の感覚は激動の後渦巻のごとく混乱した。 やがて彼女はベルリンに現われたが冷静なるハルデン氏・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫