・・・それらの点で作者の情熱ははっきり感じられるのであるが、果して作者は葉子の苦痛に満ちた激情的転々の根源を突いて、それを描破し得ているということが出来るであろうか。 私の感想では、作者は葉子と共に、あの面、この面、と転々しつつ、遂に葉子の不・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・が読者にあたえる印象の総和は、錯雑と神経衰弱的亢奮と個人的な激情の爆発とである。行文のあるところは居心持わるく作者の軽佻さえ感ぜしめる。これはどこから来るのであろうか。「子供の世界」という小市民的な一般観念で、階級性ぬきに子供の生活を「・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・無口で、激情的で、うつりゆく時世を犇々と肌身にこたえさせつつギリギリのところまで鉄瓶を握りしめている心持が肯ける。久作という人物は、しかしあの舞台では本間教子の友代の、厚みと暖かさと活気にみちた自然な好技に、何とよく扶けられ、抱かれているこ・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・低くあらしめられて、思いの鬱屈している精神にとって、高まり伸び達しようとする翹望は、どんなに激情をゆするだろう。昭和初頭から、それがわずか十年たらずの短い間に八つ裂にされてしまったまでの日本の左翼運動とその思想が、今日かえりみて、多くの人々・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ばあるほど、むきな衝突が頻々とあって、今思えばその原因はいろいろ伝統的な親族間の紛糾だの、姑とのいきさつだの、青春時代から母の精神に鬱積していた女性としての憤懣の時ならぬ爆発やらであったわけだが、その激情の渦巻は、決して娘をよけては通らなか・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・当時この作者は、恋愛のいきさつの間で、激情的に、爆発的に女の自我というものを主張した作品を書いた。従来、日本の婦人作家の作品の中では圧しつけられていた婦人の官能の面をもある意味では解放した。その後、この才能を認められていた婦人作家の生活は転・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・あれ等の歌も遺した人々の心の全部を其のような激情が占領していて、花を見ても月を見ても、純粋に花の美しさ月の輝かしさを愛せなかった不幸を、超脱しようとしない心の凝固が、芸術品としての歌に、渾然とした命を与えていないらしい。 これは、まるで・・・ 宮本百合子 「新緑」
・・・という恐怖が目覚めて、大いそぎで涙を拭く彼女は、激情の緩和された後の疲れた平穏さと、まだ何処にか遺っている苦しくない程度の憂鬱に浸って、優雅な蒼白い光りに包まれながら、無限の韻律に顫える万物の神秘に、過ぎ去った夢の影を追うのであった。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ まるで教室にでもいるように、一斉に立って迎えた中を、辞儀と愛素よい笑とを振撒きながら入って来られる様子を見、自分の心は、悲憤ともいうべき激情に動かされた。 あの平気な顔、自分の仕たことに一つの間違いもなかったのだと云いたげな風。私・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ 女というものをも、トルストイはツルゲーネフの考えていたように、純情、献身、堅忍と勇気とに恵まれたもの、その気まぐれ、薄情、多情さえ男にとって美しい激情的な存在という風に理想化して理解してはいない。もっと動物的に、或は愚劣に、或は恐ろし・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫