・・・たくはないが、子供は欲しいという表現は、ジュヌヴィエヴが、俗人でていさいやの父親というものに代表されているフランス社会の保守の習俗にぶっつけて、その面皮をはぐことで人間の真実の生活の顔を見ようと欲した激烈な感情とは、またおのずから質の異った・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・自然があるものを蔵していても、人間がその必要を認めて、それを掘り出したり、精製したりする生産のための活動を開始しなければ、それは全くないも同じだということは、今日国と国とが激烈な争奪戦を行っている石油と石炭についても分る。 さらに文化の・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・友だちとのいきさつでも、つきつめたところは全人格のぶつけ合いである点、時にはなかなか激烈な人間交渉を生じる。精いっぱい、自分が人間としての全力をひきしぼらなければならないような場合が、千変万化の形であらわれて、友情にも、クリシスがある。・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ 五六年前、私が女学校に入ろうとする頃には、激しいと云っても、今ほど競争試験は激烈なものではなかったらしい。自分の目ざしていた学校は、何でも、十人に一人くらいの比であったろう。子供だから、勿論はたの成人ほど、そう云う数学的な心配はしない・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・従って金銭がブルジョア生活の動力となり、又同時に万人の渇望の対象となった」激烈な時代であった。 七月革命で、ブルジョアジーの利害の代表者としてのルイ・フィリップが王位に置かれた後は財界の覇者、金銭の威力は極度にふるわれ、企業家で金持ちの・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・十代の人間悲劇は、社会関係に対して稚く、しかも全く激烈であるということに特色をもっている。 文学が青春の周辺にあって、そこからはなれない理由の深さがここにある。 青春は人類の可能性の時期であり、どんなに肉体の年齢が重なろうと、その重・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・侵略された内部の皮膚は乾燥した白い細粉を全面に漲らせ、荒された茫々たる沙漠のような色の中で、僅かに貧しい細毛が所どころ昔の激烈な争いを物語りながら枯れかかって生えていた。だが、その版図の前線一円に渡っては数千万の田虫の列が紫色の塹壕を築いて・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・イギリスにおける第一印象は、激烈なる感動にもかかわらず、大芸術をもって目せられなかった。九三年正月初めてニューヨークに現われた時には、ヒュネカアの語を藉れば She attracted a small band of admirable l・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・もしそれが、ローマを襲ったキリスト教のように、単にただ純然たる宗教であったならば、あれほど激烈にわが国の文化全体を動かし得たかどうかは疑わしい。我らの祖先は当時なお、一つの偉大な宗教をただ宗教として、あるいは一つの偉大な思想をただ思想として・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ht amazed to hearJesting deep in forest drear. 春の一夜、日光の下に七つの星を頂いて森をさすらう時、キーツの胸には悪に満ちたる現世に対して激烈なる憎悪の念が起こる。やがて古えの憂・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫