・・・ところが、一代は退院後二月ばかりたつとこんどは下腹の激痛を訴え出した。寺田は夜通し撫ぜてやったが、痛みは消えず、しまいには油汗をタラタラ流して、痛い痛いと転げ廻った。再発した癌が子宮へ廻っていたのだ。しかし医者は入院する必要はないと言う。ラ・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ある日小隊長は腹部に激痛を訴えたので、驚いた婆さんは灸を据えたが、医者は診て、こりゃ盲腸だ、冷やさなくちゃいけないのに温める奴があるかと、散々だった。幸い一命を取りとめ、手術もせずに全快したのは一枝や、千代やそれから千代の隣の水原芳枝という・・・ 織田作之助 「電報」
・・・ と瞑目して深く念じて放ちたる弦は、わが耳をびゅんと撃ちて、いやもう痛いのなんの、そこら中を走り狂い叫喚したき程の劇痛に有之候えども、南無八幡! とかすれたる声もて呻き念じ、辛じて堪え忍ぶ有様に御座候。然れども、之を以て直ちに老生の武術に於・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・は劇剤にして、肝油・鉄剤は尋常の強壮滋潤薬なり。劇痛の患者を救わんとするには「モルヒネ」の皮下注射方もっとも適当にして、医師も常にこの方に依頼して一時の急に応ずといえども、その劇痛のよって来る所の原因を求めたらば、あるいは全身の貧血、神経の・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫