・・・彼の歌は彼に似げない激越の調べを漲らせていた。妃たちや家来たちはいずれも顔を見合せたりした。が、誰もソロモンにこの歌の意味を尋ねるものはなかった。ソロモンはやっと歌い終ると、王冠を頂いた頭を垂れ、暫くはじっと目を閉じていた。それから、――そ・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・限りなき嬉しさの胸に溢れると等しく、過去の悲惨と烈しき対照を起こし、悲喜の感情相混交して激越をきわむれば、だれでも泣くよりほかはなかろう。 相思の情を遂げたとか恋の満足を得たとかいう意味の恋はそもそも恋の浅薄なるものである。恋の悲しみを・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・さすがに剛情我慢の井上雷侯も国論には敵しがたくて、終に欧化政策の張本人としての責を引いて挂冠したが、潮の如くに押寄せると民論は益々政府に肉迫し、易水剣を按ずる壮士は慷慨激越して物情洶々、帝都は今にも革命の巷とならんとする如き混乱に陥った。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・さりとて矢も楯もたまらずお正の許に飛んで行くような激越の情は起らないのであった。 ただ会いたい。この世で今一度会いたい。縁あらば、せめて一度此世で会いたい。とのみ大友は思いつづけていた。何ぞその心根の哀しさや。会い度くば幾度にても逢る、・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ 村を焼き討ちされたことが、彼等の感情を極端に激越に駆りたてていた。 弾丸は逃げて行くカーキ色の軍服の腰にあたり、脚にあたり、また背にあたった。短い脚を、目に見えないくらい早くかわして逃げて行く乱れた隊列の中から、そのたびに一人また・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・文学界へ書くようになってからの北村君は、殆んど若い戦士の姿で、『人生に相渉るとは何ぞや』とか『頑執盲排の弊を論ず』とか、激越な調子の文章が続々出て来て、或る号なぞは殆んど一人で、雑誌の半分を埋めた事もあった。明治年代の文学を回顧すると民友社・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 現在の若い共産党青年、共産党女子青年、そういうものの恋愛に対する観念はどうかといえば、戦時共産主義時代は、社会が新しいものを創り、古いものを壊そうとする非常に激越した時代だった。だから恋愛というものに対する考え方も或る点非常に機械的に・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・現在の若い青年共産主義同盟員、女子青年共産主義同盟員、そういうものの恋愛に対する観念はどうかというと、戦時共産主義時代は、社会が新しいものを創り、古いものを壊そうとする非常に激越した時代だった。だから恋愛というものに対する考え方も或る点非常・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・p.273○つねに逆に還り、徹底的な対照になり切っている作家ドストイェフスキーは信仰の必要をとき 他の誰よりも激越にそれを主張しているが――しかし彼自身は信心をもっていないのだ。p.276◎無信仰の十字架に釘づけになった彼は民衆の前・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫