・・・実に優にやさしき者が純熱一すじによって、火焔の如く、瀑布の如く猛烈たり得る活ける例証をわれわれは日蓮において見得るのである。このことは今の私にとっていかばかり感謝と希望であることぞ。 日蓮は実に身延の隠棲の間に、心しみじみとした名文を書・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ カーキ色の軍服がいなくなった村は、火焔と煙に包まれつつ、その上から、機関銃を雨のようにばらまかれた。 尻尾を焼かれた馬が芝生のある傾斜面を、ほえるように嘶き、倒れている人間のあいだを縫って狂的に馳せまわった。 女や、子供や、老・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・両者共に、相手の顔を意識せず、ソファに並んで坐って一つの煖炉の火を見つめながら、その火焔に向って交互に話し掛けるような形式を執るならば、諸君は、低能のマダムと三時間話し合っても、疲れる事は無いであろう。一度でも、顔を見合わせてはいけない。私・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・その時の火焔が、金木から、はっきり見えました。映写室から発火したという話でした。そうして、映画見物の小学生が十人ほど焼死しました。映写技師が罪に問われました。過失傷害致死とかいう罪名でした。子供にも、どういうわけだか、その技師の罪名と運命を・・・ 太宰治 「五所川原」
・・・と私は妻ばかりでなく、その附近に伏している人たち皆に聞えるようにことさらに大声で叫び、かぶっていた蒲団で、周囲の火焔を片端からおさえて行った。火は面白いほど、よく消える。背中の子供は、目が見えなくても、何かただならぬ気配を感じているのか、泣・・・ 太宰治 「薄明」
・・・毎年、富士の山仕舞いの日に木花咲耶姫へお礼のために、家々の門口に、丈余の高さに薪を積み上げ、それに火を点じて、おのおの負けず劣らず火焔の猛烈を競うのだそうであるが、私は、未だ一度も見ていない。ことしは見れると思って来たのだが、この豪雨のため・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・(うろついて、手にしているたくさんの紙片を、ぱっと火鉢に投げ込む。火焔ああ、これも花火。冬の花火さ。あたしのあこがれの桃源境も、いじらしいような決心も、みんなばかばかしい冬の花火だ。玄関にて、「電報ですよ。どなたか、居りませんか・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・嘘の三郎の嘘の火焔はこのへんからその極点に達した。私たちは芸術家だ。王侯といえども恐れない。金銭もまたわれらに於いて木葉の如く軽い。 太宰治 「ロマネスク」
・・・たとえば燃え尽くした残骸の白い灰から火が燃え出る、そうしてその火炎がだんだんに白紙や布切れに変わって行ったりする。あるいはまた、粉々にくずれた煉瓦の堆積からむくむくと立派な建築が建ち上がったりする。 昔ある学者は、光の速度よりもはやい速・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ だんだん目が馴れて来ると弾が上がって行く途中の経路を明瞭に認める事が出来る、そして破裂する時に、先ず一方へ閃光のように迸り出る火焔も見え、外被が両分して飛び分れるところも明らかに見る事が出来る。風の影響もあるだろうが、それよりもむしろ・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫